フランス女流作家N・サロートの長編小説。1963年刊。同名の架空の小説に対する、中流ブルジョア社交界の多種多様な反応を断片的に羅列することによって、一冊の書物が爆発的流行の対象となっていき、そのあと、しだいに忘れ去られていく集団的無意識心理の推移を分析している。作品自体については、なにひとつわからない。というのも、人物たちは、それが傑作であるかどうかを確かめるよりも、そう信じることを自己の存在の支えとし、その判断を他者に押し付けるという自己欺瞞(ぎまん)にのみ没頭するからである。風向きが変わると、たちまちにして批判の合唱が始まり、作品は忘却の淵(ふち)に投げ込まれる。三島由紀夫の『金閣寺』と争い、フォルメントール賞を得た。
[平岡篤頼]
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