食道アカラシア(読み)しょくどうあからしあ(英語表記)esophageal achalasia

日本大百科全書(ニッポニカ) 「食道アカラシア」の意味・わかりやすい解説

食道アカラシア
しょくどうあからしあ
esophageal achalasia

食道下部には、下部食道括約帯(LES:lower esophageal sphincter)とよばれる機能的括約機構があり、胃食道逆流を防止している。食道アカラシアは、LESの弛緩不全による食物の通過障害や食道の異常拡張などが見られる機能的食道疾患である。食道アカラシアの発生頻度は、10万人に対して0.4~1.2人と稀(まれ)な疾患であり、やや女性に多く、20歳代からの発症も認められる。その病態としてアウエルバッハAuerbach神経叢(しんけいそう)の変性が指摘されているが、確固たる原因はいまだ明らかでない。

[北川雄光]

症状

症状としては、嚥下(えんげ)時つかえ感が主であり、食道内貯留液の逆流により、咳嗽(がいそう)、誤嚥性肺炎などの気道系症状をきたすこともある。口腔内逆流は就寝中に多く、睡眠中に枕が汚れてしまうことも多い。また、異常収縮の出現によると思われる胸痛を訴える症例もある。検査としては、X線造影検査や内視鏡検査、食道内圧検査がある。

[北川雄光]

治療

食道アカラシアの治療法は、障害された食道運動機能を完全に回復させるものではなく、食道の通過状態の改善を図ることを目的としており、(1)薬物療法、(2)ボツリヌス毒素注入療法、(3)内視鏡下バルーン拡張術、(4)手術(外科的治療)の四つに大別される。

[北川雄光]

薬物療法

カルシウム(Ca)拮抗薬や硝酸薬は、LES圧低下作用を有し、嚥下時つかえ感、胸痛などの自覚症状に効果がある。いずれの薬剤も初回の症状改善率は50~90%と報告されているが、長期投与により耐性が生じ、効果が減弱する。薬物療法は、より根治的な治療法を行うためのつなぎとして、あるいは根治的な治療が禁忌である場合の治療法として位置づけられている。また、バルーン拡張術や手術療法を行った後でも、胸痛などの症状の遺残に対してCa拮抗薬を内服することがある。

[北川雄光]

ボツリヌス注入療法

内視鏡的に(内視鏡を用いて)ボツリヌス毒素をLES内に注入する方法である。平滑筋内に注入されたボツリヌス毒素は、迷走神経末端のレセプターに結合し、シナプスからのアセチルコリン放出を妨げ、LES弛緩を引き起こす。

 ボツリヌス毒素注入療法は、簡便で治療早期に効果が期待でき、欧米を中心に有効性が報告されている。治療成績自体は手術療法には及ばないと考えら得るが、高齢者などの手術療法の適応にならない患者の治療法の選択肢の一つと考えられる。ただし、2008年(平成20)の時点では、食道アカラシアの治療としては日本で認可されておらず使用不可能である。

[北川雄光]

内視鏡下バルーン拡張術

内視鏡下バルーン拡張術は、ポリエチレンバルーン(径30~40ミリメートル)を用いてLESの食道輪状筋を進展・断裂させ、LES圧の低下をはかる治療法である。手術に比べ、低侵襲であり、複数回の治療が可能である点が長所であるが、食道穿孔(せんこう)や胃食道逆流症などの合併症を起こす可能性が欠点として挙げられる。

[北川雄光]

外科的治療

食道アカラシアに対する手術では、以下の二つの操作を行う。

(1)LES付近の筋層を切開し、LES圧を下げ、通過障害を改善する。

(2)胃食道逆流を防止するための噴門形成とよばれる処置をする。

全身麻酔下の手術であり、本項で提示した四つの治療の選択肢のなかでは侵襲は最大であるが、治療効果ももっとも優れていると考えられる。内視鏡下バルーン拡張術と外科的治療のどちらを第一選択とすべきかは、いまだ議論の余地があるが、近年、鏡視下手術手技の発達により、低侵襲で美容的にも優れた腹腔鏡下食道アカラシア手術が普及しつつある。このため、手術のリスクが低い場合には手術療法が第一選択とされることが多くなってきている。

[北川雄光]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例