改訂新版 世界大百科事典 「黒い伝説」の意味・わかりやすい解説
黒い伝説 (くろいでんせつ)
Black Legend
Leyenda negra[スペイン]
もともとはイタリア人がシチリア,サルデーニャを征服したアラゴン王家に対して抱いた反感に発し,しだいにその対象がスペイン全体に拡大された。16,17世紀スペインに敵対するヨーロッパの各国が政治的・経済的もしくは宗教的な意図のもとに,〈長い歴史を通じてスペイン人は残虐かつ不寛容で,しかも貪欲かつ偽善的な国民である〉とスペイン人の残虐さを誇張し捏造(ねつぞう)したもの。とくにハプスブルク朝下のスペインの覇権に敵意をもつ国々は,異端審問にみられる宗教的不寛容と残虐な拷問,およびインディアスの征服におけるコンキスタドールの非道な行為を口実に反スペイン運動を展開し,〈黒い伝説〉を作り上げた。そのなかで1552年セビリャで出版されたラス・カサスの《インディアスの破壊についての簡潔な報告》は著者の意図とはかけ離れて,スペイン人によるスペイン人告発の書として〈黒い伝説〉のなかで大いに利用された。〈伝説〉は19世紀初頭スペインからの独立を目指すイスパノ・アメリカでも,政治的に利用された。これに対し,スペインでは〈白い伝説Leyenda blanca〉を唱える人々が現れ,インディオのキリスト教化,キリスト教文化の移植などを理由に征服を高く評価し,〈黒い伝説〉を攻撃した。いずれも自国の政治・経済・宗教活動を一方的に正当化すべく作り上げた,自己中心的なスペイン像にすぎない。
執筆者:染田 秀藤
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報