日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラス・カサス」の意味・わかりやすい解説
ラス・カサス
らすかさす
Bartolomé de Las Casas
(1474―1566)
スペインの「新大陸」征服にあたって、先住民インディオの奴隷化に反対し、その権利擁護に献身した修道士。セビーリャの商人の子に生まれ、1502年のイスパニョーラ島遠征に参加した。13年には従軍司祭としてキューバ征服に参加、エンコミエンダ(先住民統治使役権)を与えられた。しかし、スペイン人による先住民酷使の惨状を目にして15年帰国、国王にインディオ救済を訴えた。20~22年にはベネズエラに酷使なき理想植民地の建設を試みたが失敗、ドミニコ会修道院に入り、27年から『インディアス史』などの執筆に取り組んだ。
1531年ごろから実践活動も再開、34~40年に中央アメリカ地域に平和的教化植民地を建設したのち、40年に帰国した。42年には新大陸におけるスペイン人の悪業の数々を告発した報告書を国王カルロス1世(カール5世)に提出し、ついに同年末、エンコミエンダ制の漸次廃止や先住民の奴隷化禁止などを明記した「新法」制定に成功した。44年メキシコ南部のチアパス地方の司教に任命されたが、植民地スペイン人の猛反対を受けた国王が「新法」の骨抜きを宣言したので、47年帰国し、以後本国でインディオの自由擁護に努めた。彼のスペイン人批判は反スペイン・反カトリック勢力にも利用され、いわゆる「黒い伝説」の根拠とされた。
[野田 隆]
『B・ラス・カサス著、染田秀藤訳『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(岩波文庫)』▽『B・ラス・カサス著、石原保徳訳『インディアス破壊を弾劾する簡略なる陳述』(1987・現代企画室)』