日本大百科全書(ニッポニカ) 「21センチ波」の意味・わかりやすい解説
21センチ波
にじゅういっせんちは
中性の水素原子が放つ電波の線スペクトル。波長が21.10611センチメートル(周波数1.420406ギガヘルツ)のため、21センチ波の名がある。21センチ波によるメーザー現象を応用した水素原子時計はもっとも正確な時計の一つとして知られている。
21センチ波は宇宙における低温の水素ガスの分布や運動を調べたり銀河系の構造などを研究するうえで重要な観測対象である。水素は宇宙の物質中の大部分(重さで70%、原子の数で90%強)を占めるが、低温状態では可視光に対して透明であるため光学望遠鏡では観測できない。電波望遠鏡による宇宙の水素ガスからの21センチ波観測は1951年に成功し、その後、大規模に観測が進められている。その結果、銀河系の渦巻構造、星間物質の状態、銀河系中心部のガスの異常な運動、渦状銀河をつなぐ水素ガスの巨大なブリッジやハローの存在などが明らかにされ、宇宙の研究に衝撃を与えた。オーストラリアと南アフリカで進められている長波長電波観測用の巨大電波干渉計SKA計画は強力な21センチ波観測能力を備えることにより、宇宙膨張初期における天体形成の直接観測などを目ざしている。
[海部宣男 2017年4月18日]
『赤羽賢司・海部宣男・田原博人著『宇宙電波天文学』(1988/復刊・2012・共立出版)』▽『中井直正他編『宇宙の観測2』シリーズ現代の天文学16(2007・日本評論社)』▽『海部宣男著『銀河から宇宙へ』(新日本出版社・新日本新書)』