銀河は1000億個以上の星が互いの重力で結合している系であるが、これら星と星の間の空間はまったく何も存在しない真空でなく、物質がさまざまの相として存在しており、それらを星間物質と総称している。1個の星の平均密度(1立方メートル当り10トン)や地球上の大気の密度(1立方メートル当り約1.6キログラム)と比べると非常に希薄な状態にある。
[池内 了]
現在知られている星間物質を、その温度や密度の違いによって分類してみよう。
平均密度(kg/m3)が10-15以上の分子雲、10-17~10-16の中性水素雲、10-18~10-17のHⅡ領域、10-19~10-18の一様ガス、10-21~10-20の高温ガス、10-19~10-17の超新星残骸(ざんがい)が主成分である。
ちょうど地球の大気のように、一様に存在する成分(一様ガス)のなかに分子雲や中性水素雲の密度の高い雲が浮かんでおり、局所的に若く質量の大きい星に照らされてイオン化したHⅡ領域や、超新星の爆発によって高い温度へ加熱された領域(高温ガス)や超新星残骸があちこちに点在しているというイメージがよくあう。
温度をみると、絶対温度が10K(ケルビン)から1000万Kにまで広がっている。温度が100万K以上では、ガスはほぼ完全にイオン化していてプラズマ状態にある。100万Kから3万Kの間では、星間物質の主成分である水素(90%)やヘリウム(9%)は完全に電離しているが、炭素、酸素、窒素などの重元素とよばれる原子は、温度で決まった部分的な電離状態にある。これらは、数からいえば星間物質中には水素の10万分の1程度しか存在しないが、電離状態から温度が決められるので、星間物質の診断によく利用される。温度を3万Kから8000Kへ下げてゆくと、水素は電離した状態から中性の状態へ移行してゆく。1000K以下の状態では、ほぼすべての元素は中性原子や分子の状態になっており、それらは星間雲中に多く存在する。100K以下の低温では、重元素の大部分は数マイクロメートル以下の微粒子(グレイン)に取り込まれてしまう。これは地球上の塵(ちり)と似たものとして、星間塵(じん)(宇宙塵)とよばれている。
中性水素雲から高温ガスまでの四つの成分は、ほぼ同じ圧力(10-19気圧)状態と考えられているが、分子雲は自らの重力でゆっくり収縮し始めており圧力が高い。また、超新星残骸は、超新星爆発の際に放出された大量のエネルギーによって星間空間へ広がっており、最終的にはそのサイズは直径200光年を超えるようになる。星間空間の約30%の領域を高温ガスや超新星残骸が占め、残り約70%にHⅡ領域や一様ガスが分布している。一方、星間物質の質量の90%以上は、分子雲、中性水素雲の星間雲として存在しており、質量は低温のガスに、体積は高温のガスに占められているといえる。
星と星の間の空間つまり星間空間には、星間物質とともに、星からの光や宇宙線が飛び交っており、星間磁場も存在することが確かめられている。宇宙線は、超新星やパルサーで加速されて、ほぼ光の速さで星間空間を飛び交っている粒子である。星の光や宇宙線は、星間雲にぶつかると吸収されてそれらを温めており、星間雲からは原子や分子の遷移で電波や赤外線が放射され、温度のバランスが保たれている。宇宙線や電離した原子は、星間磁場を引き延ばしたり圧縮したりしてエネルギーをやりとりしており、星間物質の運動を調べるには星間磁場を無視できない。
[池内 了]
星間物質の観測は電波からX線までの全波長でなされている。分子雲は電波や赤外線によって直接星間分子をみつけることで、中性水素雲は水素原子の電波の輝線分布でその広がりを推定している。HⅡ領域は可視光で電離したイオンの存在を確かめている。高温のガスは軟X線の強度分布や紫外線領域での吸収線を利用して発見された。夕日が赤いのは、太陽からの光の青い部分が塵に吸収されてしまい、赤い部分しか届かなくなるためだが、星間空間にも星間塵が存在し、遠くの星は赤くみえる。もっと密度の高い雲があると、完全に光を遮ってしまうので、その領域は暗黒星雲とよばれる。
[池内 了]
私たちの銀河系のあちこちで星が生まれているところがみつけられている。オリオン星雲はその代表的な例である。そこには巨大な分子雲があり、若い星があり(したがって、HⅡ領域があり)、超新星残骸と思われる高温ガスが巨大に広がった領域がある。このように、星間物質中の分子雲から星は生まれ、若い星によって周りのガスは電離されてHⅡ領域になり、超新星として爆発した星によって高温ガスや超新星残骸がつくられる。同時に、爆発の衝撃波で強く圧縮されたガスは、中性水素雲になったり、グロビュールのようなもっと小さな塊となり、それらからも星は生まれると考えられる。高温ガスは、銀河内に広がりつつ冷えて一様成分になる。分子雲は、中性水素雲が互いに衝突して生成される。私たちの銀河系では、こうした一連の過程を経た結果、ほとんどの星間物質が星になる。銀河系の星間物質の総質量は、星の総質量の10分の1程度でしかないが、星の誕生と死に大きくかかわっている。地球の大気は、質量は微々たるものだが、地球上の生命発生に重要な役割を果たしたように、星をつくる材料を提供し、星からのエネルギーを受けて姿を変える星間物質は、銀河の進化をとらえるうえで最重要物質である。
[池内 了]
さまざまな銀河中での星間物質の総質量やどのような成分が多いかを観測することによって、その銀河の進化状態を推定することができる。楕円銀河(だえんぎんが)には、分子雲や中性水素雲の温度の低い星間雲はほとんど発見されていない。これは、楕円銀河には星間物質が非常に少なく、若い星も生まれていないことを示唆している。実際に、これらの銀河は赤い古い星ばかりで、青い若い星はほとんど存在しない。楕円銀河は進化の進んだ老いつつある銀河といえよう。スパイラルアーム(渦状腕)がきれいにみえる渦状銀河(私たちの属している銀河系もこれに分類される)では、分子雲や中性水素雲が多く発見されており、それらから生まれる青い若い星も多くある。これらの星間雲や生まれたての若い星が、渦巻状に並んでいるのが渦状銀河なのである。渦状銀河は、物質の多くが星になっているが、いまなお星間物質から星が生まれている壮年の進化段階にあるといえる。さらに、形状は不規則であるが、星の総質量より星間物質の総質量のほうが多いという銀河もある。私たちの銀河系のすぐ隣にある大・小マゼラン星雲はこのタイプである。これらの銀河では銀河全体で活発に星が生まれており、若々しい少年や青年の進化段階にあると考えられる。
このように星間物質がどれくらい多く存在しているかを観測すれば、その銀河が若いのか老いているのか(星が多く生まれているか、もう星は生まれていないか)の目安をつけることができる。現在では、多くの銀河について星間物質の状態が明らかにされつつあり、銀河進化の定量的な研究が進められている。
[池内 了]
恒星と恒星の間の空間には何もないように見えるが,実はごく希薄なガスや固体の微粒子がある。これを星間物質という。地上の1atmの空気1cm3中に気体分子は1019個あるが,星間ガスは1cm3中に気体原子1~10個しかない。地上の実験室で得られる〈超高真空〉でも10⁻12mmHg ,つまり10⁻15atm,104個/cm3程度であるから,星間ガスがいかに薄いかわかる。われわれの銀河系内には,1011個の恒星がある。恒星と星間ガスと星間固体微粒子(星間塵という)の総質量の比は,だいたい1:10⁻1:10⁻3である。
O型星や高温のB型星のように,表面温度が2万K以上ある星のスペクトルには,ヘリウム,水素以外の吸収線はほとんどないのがふつうである。ところがナトリウムのD1線,D2線やカルシウムイオンのK線の鋭い吸収線が観測されることがある。これらは当然,星と地球の間にある低温の星間ガスによるものである。また,これらの線は数本に分かれていることがあるので,星間ガスは一様に存在するのでなく,別々の速度で動き回っている雲からできていて,星間雲と呼ばれる。われわれの銀河系の中の水素ガスの分布は,波長21cmの電波の観測からよくわかっている。1970年代になって,ロケットや人工衛星から,地上では地球大気に吸収されて観測不能な紫外域の分光観測がなされるようになり,星間ガスに関する知識は非常に増え,星間ガスの化学組成もわかるようになった。72年に飛んだコペルニクスという人工衛星で観測された〈へびつかい座ζ星〉の方向の星間ガスでは,太陽系における元素の存在比と比べて重元素が少なく,1/100以下のものはカルシウム,チタン,アルミニウム,1/10以下のものは炭素,鉄,マグネシウムなど,1/4以下のものは窒素,酸素,ナトリウム,ケイ素などであった。これは,星間物質の化学組成は太陽とほぼ同じであるが,重元素の不足分は以下に述べる星間塵という固体の形になっていることが多いためと考えられる。星間ガスの温度は100K程度である。
昔から,天の川の中に見える黒い部分は,天の川の星の光をその前にある星間塵が遮っていると考えられていた。〈ダスト雲〉と呼ばれるが,〈暗黒星雲〉というもっと神秘的な名まえもある。その形から〈馬頭星雲〉とか〈コールサック(石炭袋)〉といったおもしろい名まえがついている。このようなとくに星間塵の多いところでないふつうの星間ガスの中にも星間塵は存在し,空間赤化や星間吸収から,1辺が100mの立方体の中に大きさ0.1μmほどの星間塵が1個程度あることが知られているが,星間塵の化学組成を推定するのは困難である。上記したように星間物質の化学組成は太陽とほぼ同じで,いちばん多いのが水素,次にヘリウム,その次は水素の1/1000ほどしかないが酸素,炭素,窒素である。これらの組合せで個体になりそうなものをさがすと,氷,メタン,アンモニア,……があり,これらに鉄など組成比や融点から見て固体になりそうなものを混ぜた空想的産物が,1940年代からいわれはじめた星間塵の〈汚い氷dirty ice〉モデルである。また,M型巨星や赤外線星のスペクトルで10μm付近にピークがあり,これが,ケイ酸塩類のSi-Oの伸縮振動の振動数に一致することから,星間塵はケイ酸塩であるという説もある。要するに星間塵の化学組成はまだわかっていない。常磁性の星間塵は銀河磁場との相互作用で,磁場に直角に細長い軸を向けてそろい,星の光がこういうところを通ってくると直線偏光する。したがって,偏光の波長による変化を観測すると,星間塵についての知識が得られる。とくにカニ星雲など強い直線偏光をしている光が,このような場所を通ると円偏光成分を生ずる。72年にカナダのマーチンP.G.Martinはこれから星間塵が誘電体であって金属ではないことを示した。
星間物質は非常に希薄なので熱平衡とはほど遠い。ガスは低エネルギーの宇宙線や軟X線による加熱と,後に述べる星間塵による冷却や水素分子などの赤外での線放射による冷却がつり合って約100Kの温度になっている。一方,星間塵は遠くのO型星,B型星の紫外線を吸収することによる加熱と,星間塵の出す赤外の熱放射による冷却がつり合って約10Kの温度になっている。ガス原子が星間塵と衝突すると,衝突前には100Kに対応する速い速度だったものが,衝突後には塵の温度10Kの速度で出ていくので,結局,ガスは塵によって冷却され,逆に塵はガスによって加熱される。ガスの冷却の原因として上記のように星間塵は有効に働く。しかし,星間塵にとっては放射のやりとりによる熱の出入りのほうがはるかに大きいので,ガスによる加熱は無視できる。このようにして,星間空間には約100Kのガスと10Kの塵が共存している。
星間ガスも星間塵も銀河面に集中的に分布し,しかも銀河の腕に沿って多い。われわれの銀河以外の銀河を見ても,真横から見える銀河はその銀河面に黒い吸収帯があり,また,銀河の腕が見える向きにある銀河はその腕に沿って黒い吸収帯(ダストレーンdust laneという)が見える。つまり,われわれの銀河だけでなく,どの銀河にもある一般的性質であることがわかり,銀河内のO型星,B型星の分布と強い相関がある。
バラ星雲などの写真を見ると,星雲の中に黒い丸い粒々が連なっている。これは星間物質が濃く集まったところでグロビュールglobuleと呼ばれる。やがて星として光り出すと思われる。上記した星間物質の濃い場所に若いO型やB型星が多いことに対応している。実際,オリオン星雲では,若いO型星トラペジウムとともに,赤外線観測により濃いガスの雲(いわば星の卵)も発見されている。
執筆者:上條 文夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(土佐誠 東北大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
星と星との間の空間に存在する物質.この空間は決して真空ではなく,ガスやちりのような微粒子が散らばっていて,平均密度は1 cm3 中1個の原子が存在する程度といわれている.その分布は銀河面にそって薄い層をなしているが,一様に散らばっているのではない.星間物質としてCa,Na,Hなどの原子が存在する.これらの存在は,特性波長の吸収から知られる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新