X線CT・MRI

内科学 第10版 「X線CT・MRI」の解説

X線CT・MRI(検査法)

(1)X線CT(computed tomography)
 X線CTでは20世紀末に複数の検出器を配列し複数スライスを同時に撮像できるMDCT (multi detector CTあるいはMSCT: multi slice CT)が臨床応用され,より精密な断層像を広範囲に短時間で撮影できるようになった.検出器は4列,16列,32列,40列,64列,128列,256列と多列化が進んだが,最近では320列面検出器や二重線源の登場により,さらに短時間に広範囲を撮影することが可能になった.特に面検出器は16 cmの範囲をカバーするため1回転で心臓全体をスキャンできる.現在の一般的なMDCTにおける空間分解能は0.33~0.5 mm,時間分解能は83~167 msecである.胸部撮像は10秒以内で行われ,特に心臓の撮影では心電図に同期させて動きの影響が少ないより正確な断層像や立体画像を構成できる.さらに高性能機種では撮像時間の短縮ソフトウエア進歩により心拍数100回/分程度でもβ遮断薬などを用いて心拍数を下げることが不要になり,期外収縮や心房細動症例でも鮮明な心臓画像を得ることができるようになった.また,被曝線量も従来の64列MDCTの1/4~1/5に低減される.
a.単純CT
 心臓では冠動脈や弁における石灰化を確認できる.冠動脈石灰化を定量的にスコア化するとその値が多いほど有意な冠動脈病変を有する確率が高くなる.しかし,石灰化スコアは年齢,性別,人種,保有する冠危険因子などにより基準が異なるため,特に冠動脈イベントの予測については中等度リスク症例では有用だが,低または高リスク症例では推奨されない(Budoffら, 2006).収縮性心内膜炎の原因になる心内膜の石灰化も容易に描出される.また心膜液貯留や心外膜脂肪はCT値から判別できる.大動脈瘤はその外径を測定することで存在診断は可能である.また,大動脈断面像の比較的内側に石灰化が認められると,動脈解離を伴っていると予想できる.上行大動脈壁の石灰化検出は冠動脈バイパス術など開心術のリスク評価(大動脈クランプの可否など)に役立つ.
b.造影CT
 ヨード系造影剤を静脈内に投与して撮像する.心臓では心筋と心内腔との判別が容易になる.MDCTで心電図に同期して三次元画像を再構成できるほか,心臓の動画像をつくることが可能で左室駆出率や心拍出量を算出したり,左室壁運動異常を評価したりできる.心筋の造影では特に遅延造影像が心筋の線維化を表していると考えられ,心筋梗塞後の生存心筋の評価に応用されている.さらに右心系や左心房と肺静脈の形態評価も可能で後者は特に心房細動のカテーテル治療に応用される. ⅰ)冠動脈CT (coronary CT angiography:CCTA) MIP (maximum intensity projection) で通常の冠動脈造影像と同様に任意の角度からの画像を得られ,CPR (curved planar reformation)やMPR (multi planar reconstruction)では特定の冠動脈枝の縦断面画像を,ボリュームレンダリングでは立体画像を表示できる(図5-5-44).カテーテルによる冠動脈造影検査を基準とした64列MDCTの冠動脈有意狭窄病変の診断精度では陽性的中率78%,陰性的中率98%と報告された(Schroederら, 2008).ただし,石灰化部位での狭窄度は評価できない.また,64列MDCTでは約85%の感度で非石灰化冠動脈プラークを検出でき,血管リモデリングの評価やプラーク容積の測定も可能である.さらにプラークのCT値から組織性状(脂質性,線維性,微小石灰化など)を推定でき,急性冠症候群の原因となる不安定プラークの検出(低CT値,陽性リモデリング,斑状石灰化などの所見)にも期待されている. ⅱ)CT 血管造影(CT angiography:CTA)
 特に大動脈解離の診断には必須で,真腔・偽腔の鑑別や血栓閉塞型大動脈解離の診断に有用である.MDCTでは任意の断面画像を再構成できるので,縦断面像により解離の広がりを評価したり,血栓閉塞型の予後に関与する潰瘍性突出(ulcerative projection:ULP)を検出したり,また造影剤注入後のダイナミック撮像により解離の入口部の評価も可能である.また,MDCTでは頸部から下肢末端まで20秒以内で撮像することが可能であり,大動脈から四肢末梢動脈までの造影画像を再構成することができる.早期の大動脈炎にみられる大動脈壁肥厚や大動脈縮窄症・閉塞性動脈硬化症などの先天的・後天的形態異常の検出にもきわめて有用である(図5-5-45).静脈系ではMDCTは肺動脈塞栓症の診断に必須の検査で,下肢深部静脈血栓の存在診断にも用いられる.いまやMDCTは心血管の非侵襲的画像診断に不可欠だが,造影剤使用やX線被曝の点で限界もあり,検査頻度などを考慮した適応の十分な検討も必要である.
(2)MRI
 MRI (magnetic resonance imaging)は磁場内における核磁気共鳴現象を利用して画像を得る方法であり,水素原子の密度や縦緩和時間(T1),横緩和時間(T2)を映像化したものである.MRIは放射線被曝なしに任意の断面画像が得られることが特徴である(Hundleyら,2010).
a.シネMRI
 steady state法で心電図同期下に息止めにて撮像され,動画像として心臓の形態学的評価(特に心尖部を中心とした左室肥大の分布,右心系形態異常,心膜肥厚など)や心機能解析(心室容積,駆出率,局所壁運動や心筋重量など)に有用である.
b.T2強調画像
 急性心筋梗塞では心筋細胞と冠動脈血管床の障害により心筋浮腫が出現し高信号を呈する.これは梗塞発症後1カ月程度まで認められる.
c.造影MRI
 心筋血流MRIではガドリニウム造影剤を急速静注後に撮像する.アデノシンなどの薬物負荷と併用して虚血部位を検出でき,その診断精度は負荷心臓核医学検査よりもすぐれている.遅延造影MRIでは心筋梗塞による壊死巣が描出されるほか,拡張型心筋症,肥大型心筋症,心アミロイドーシス,心サルコイドーシスや心筋炎などの診断に用いられる(図5-5-46).
d.冠動脈MRA(coronary MR angiography)
 心電図と呼吸に同期させて造影剤なしで撮像する.steady state法で撮像し冠動脈3枝を同時に描出できる.石灰化には影響されないが,冠動脈狭窄の診断精度はMDCTよりもやや劣る.
e.MR血管造影
 物体の速度によってMR信号が変化する現象を利用して造影剤を使用せずに血管の三次元画像を得ることができ,全身の血管病変のスクリーニングに適している.また,頸動脈などの血管壁やプラークの組織性状評価も可能である.ガドリニウム造影剤を用いてテーブル移動式の撮影を行うことで非造影MRAよりも高い分解能で大動脈から末梢動脈全体の画像を得ることができる.[小宮山伸之]
■文献
Budoff MJ, Achenbach S, et al: Assessment of coronary artery disease by cardiac computed tomography. A scientific statement from the American Heart Association Committee on Cardiovascular Imaging and Intervention, Council on Cardiovascular Radiology and Intervention, and Committee on Cardiac Imaging, Council on Clinical Cardiology. Circulation, 114: 1761-1791, 2006.
Hundley WG, Bluemke DA, et al: ACCF/ACR/NASCI/SCMR 2010 Expert consensus document on cardiovascular magnetic resonance: A report of the American College of Cardiology Foundation Task Force on expert consensus documents. J Am Coll Cardiol, 55: 2614-2662, 2010.
Schroeder S, Achenbach S, et al: Cardiac computed tomography: indications, applications, limitations, and training requirements: Report of a Writing Group deployed by the Working Group Nuclear Cardiology and Cardiac CT of the European Society of Cardiology and the European Council of Nuclear Cardiology. Eur Heart J, 29: 531-556, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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