Zollinger-Ellison症候群

内科学 第10版の解説

Zollinger-Ellison症候群(膵神経内分泌腫瘍)

(1)Zollinger-Ellison症候群
概念
 1955年にZollingerとEllisonにより難治性潰瘍,胃酸の過分泌,膵Langerhans島非B細胞腫瘍を3主徴としてはじめて報告された症候群で,膵,消化管に発生したガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)である.
疫学
 膵神経内分泌腫瘍のなかではインスリノーマについで頻度が高く,膵臓,十二指腸,胃,腸間膜,空腸,胆囊,卵巣などに発生する.最近では本症の70%が十二指腸,25%が膵臓,5%がその他の部位に存在するといわれている.多くが多発性で,術前の局在診断や肉眼的に確認が困難な微小腺腫や過形成のこともある.約60〜90%が悪性で,肝転移やリンパ節転移を起こす頻度が高い.
病態
 ガストリンは胃幽門部粘膜に存在するG細胞より分泌される消化管ホルモンで,胃底腺領域の壁細胞上のガストリン/コレシストキニン-B受容体に結合し,胃酸分泌を刺激するほか,ECL(enterochromaffin-like腸クロム親和性細胞様)細胞上の受容体にも作用してヒスタミン分泌を促進し,間接的に胃酸分泌を刺激する.正常では胃内pHが低下するとフィードバック機能が働き,ガストリン分泌が抑制され胃酸分泌も抑制される.本症では異所性にガストリンを過剰産生するためにフィードバック機能が働かず,胃酸分泌が持続し難治性胃潰瘍を生じる.また,ガストリンによる腸管運動亢進と胃酸過分泌によって水様下痢をきたす.本症の約25%がMEN I型に伴い,MEN I型の膵神経内分泌腫瘍の約50%はガストリノーマである.
臨床症状
 主症状はガストリン過剰分泌による胃酸分泌亢進や消化性潰瘍に伴うものである.上腹部痛が最も多く,悪心・嘔吐,下痢,体重減少,消化管出血などをきたす.消化性潰瘍は難治性で,通常の好発部位のほかに胃切除後の吻合部や十二指腸の下行脚以下の肛門側にも発生する.下痢は大量な胃酸分泌が腸から再吸収しきれないことや,十二指腸液の酸性化によって膵液中の消化酵素が不活化され消化吸収障害を起こすことによって生じる.
診断
 難治性潰瘍,多発性潰瘍があれば本症を疑って存在診断を行う.
1)空腹時血中ガストリン値:
空腹時血中ガストリン値が150 pg/mL以上であれば本症を疑うが,1000 pg/mL以上ではほぼ確実と考えてよい.
2)負荷試験:
a)セクレチン負荷試験:胃前庭部にはG細胞の近傍にソマトスタチンを産生するD細胞が存在し,ソマトスタチンは壁細胞,主細胞,G細胞に抑制的に働く.健常人ではセクレチンを負荷するとD細胞からソマトスタチンが分泌され,パラクリン(paracrine)経路を介してG細胞からのガストリン分泌を抑制することができる.一方,ガストリノーマ細胞にはセクレチン受容体があり,セクレチンは直接ガストリン分泌を促進するという逆説的な反応があり,また,本症の腫瘍内にはD細胞は存在しないので,セクレチン負荷によってもソマトスタチンの分泌は刺激されない.そのため,ソマトスタチンによる抑制がかからず,ガストリン分泌が増加する.この反応を利用したのがセクレチン負荷試験と選択的動脈内セクレチン注入試験である.正常ではセクレチン投与後,血中ガストリン値は低下するが,本症では負荷前に比べてガストリン値が20%以上増加する. b)カルシウム負荷試験:セクレチンがわが国では製造中止となったため,セクレチンの代わりにカルシウム負荷試験が行われている.本症の腫瘍細胞にはカルシウム感受性受容体の発現があり,カルシウムを投与するとイノシトール三リン酸(IP3)の細胞内情報伝達系を介して細胞内カルシウム濃度が上昇し,ホルモン分泌を刺激する.この機序を利用したのがカルシウム負荷試験である.カルシウムを緩徐に静脈内投与すると血中ガストリン値が増加する.
3)胃酸分泌測定,24時間pHモニター:
通常,健常人の胃内pHは日内変動があり,空腹時の胃内pHは2以下で,食後は4〜5に上昇する.本症では1日を通して胃内pHが2以下である時間が大半を占めることで過酸状態であること判断できる.胃酸分泌試験では基礎胃酸分泌量(BAO)が15 mEq/時以上,ガストリン刺激時の最高胃酸分泌量(MAO)との比(BAO/MAO)が0.6以上で本症を疑う.
4)血中クロモグラニンA:
わが国では保険承認されていないが,海外では神経内分泌腫瘍の腫瘍マーカーとして使用されている.
局在診断
1)腹部画像診断:
腹部USでは境界明瞭,辺縁整,内部が均一な低エコー腫瘤像を呈する.腹部ダイナミックCT,MRIの早期相で造影効果を有し(図8-9-30),腹部MRIのT強調画像で低信号,T強調画像で高信号を示す.腫瘍内部に出血や壊死による囊胞がみられることもある.超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography:EUS)は小病変の検出感度がよく,穿刺吸引針生検(EUS-FNA)にて組織学的診断が可能である.ERCPでは膵管像の圧排や狭窄がみられることがある.
2)ソマトスタチン受容体シンチグラフィ:
ソマトスタチン受容体(SSTR)には5種類のサブタイプがあり,膵神経内分泌腫瘍ではSSTR2とSSTR5が高発現する.ソマトスタチン受容体シンチグラフィは,消化管ホルモン産生腫瘍に過剰発現したソマトスタチン受容体に放射線核種を標識したソマトスタチン類似体(111In-ペントレオチド)(国内未承認)が特異的に結合することを利用した診断法である.本症の検出率はほかの画像診断に比べて感度が高く,治療方針の決定にも有用である.
3)選択的動脈内セクレチン注入試験(selective arterial secretin injection test: SASI test):
Imamuraらが開発したSASI testは,微小で多発するガストリノーマの局在を知るうえで有用な検査である(Imamuraら,1987).血管造影下で肝静脈内に採血用カテーテルを留置し,膵の栄養血管である胃十二指腸動脈,脾動脈,上腸間膜動脈にカテーテルを選択的に留置し,各動脈にセクレチンを注入し肝静脈より20秒ごとに採血し血中ガストリン値を測定する.セクレチン投与後のガストリン値が前値に比べて有意な上昇が認められた場合に,その動脈の栄養領域に腫瘍が存在すると判定する.カルシウム負荷,グルカゴン負荷でも同様に局在診断が可能である.
治療
 ガストリノーマの60〜
90%は悪性であるため,可能な限り腫瘍を切除することが望ましい.転移があっても切除可能な場合には,腫瘍量を減らしてホルモンの過剰産生による症状改善を目的とした減量手術の適応である.腫瘍が微小かつ多発性で局在診断が困難,あるいは多発性転移のため手術が不可能な場合には,高ガストリン血症による過剰な胃酸分泌を抑制することによって自覚症状を改善できる.
1)外科的切除術:
腫瘍は膵,十二指腸の原発巣のほかに高率にリンパ節転移,肝転移を合併するので,領域リンパ節郭清を含め腫瘍の切除を行う.悪性所見に乏しい場合には腫瘍の核出術や摘除術,局所浸潤を疑う場合には膵頭十二指腸切除,十二指腸部分切除,膵体尾部切除を行う.術後の血中ガストリン値や負荷試験による血中ガストリン値の反応が正常化したことで根治切除を確認できる.
2)薬物療法:
a)胃酸分泌抑制薬:プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸分泌を強力に抑制することによって,臨床所見の改善,潰瘍の抑制が可能である.
b)ソマトスタチンアナログ:ソマトスタチンの持続性合成アナログである酢酸オクタレオチドは腫瘍のソマトスタチン受容体に作用し,ガストリン分泌を抑制し,臨床症状を改善させる.
c)化学療法:ストレプトゾトシン(わが国では製造されていない),5-フルオロウラシル(5-FU),ドキソルビシン,ダカルバジンなどの有効性が報告されている.分子標的薬としてラパマイシンの誘導体であるmTORを阻害し,腫瘍細胞の増殖抑制作用と血管新生抑制作用のあるエベロリムスが2011年に承認された(Yaoら,2011).また,血管内皮増殖因子受容体(VEGF),血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)などの増殖因子のチロシンキナーゼ阻害剤であるスルチニブも海外の第Ⅲ相試験で良好な結果が得られている(Raymondら,2011).
d)その他:多発性肝転移例に対して肝動脈塞栓術や肝動脈化学塞栓術が行われる.
鑑別診断
 高ガストリン血症を呈する病態として,胃体部の萎縮が高度なA型胃炎,ヒスタミンH2受容体拮抗薬使用時,悪性貧血,腎不全,迷走神経切除術後,幽門前庭部G細胞過形成,短腸症候群などがある.[清水京子・白鳥敬子]
■文献
Imamura M, Takahashi K, et al: Usefulness of selective arterial secretin injection test for localization of gastrinoma in the Zollinger-Ellison syndrome. Ann Surg, 205: 230, 1987.
Raymond E, Dahan L, et al: Sunitinib malate for the treatment of pancreatic neuroendocrine tumors. N Engl J Med, 364: 501-513, 2011.
Yao JC, Shah MH, et al: Everolimus for advanced pancreatic neuroendocrine tumors. N Engl J Med, 364: 514-523, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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