知恵蔵 「EUの難民問題」の解説
EUの難民問題
当初、リビア、シリアの難民の多くは周辺国に避難していたが、紛争・内戦収束の見通しが立たないことから、豊かな生活あるいは永住の地を求めて西欧を目指すようになった。主なルートは、航路の「地中海ルート」と陸路の「バルカンルート」(トルコ~東欧経由)。15年に入ると、航路のEUへの玄関口となるギリシャやイタリアの島々には、ボート難民が大挙して押し寄せるようになった。陸路の東欧諸国にもシリア難民が急増したため、入国を拒否する動きが強まり、ハンガリーは国境にフェンスを築き、クロアチアなども国境の警備を強化している。一方、これまで難民受け入れに消極的だったイギリスは国内外からの批判を受け、難民受け入れ枠の拡大を表明した。
足並みがそろわなかったEUも9月以降首脳会談を重ね、受け入れに積極的な人道主義のドイツに合わせる形で、今後2年間で16万人の難民を加盟国で分担することを決めた。しかしハンガリー、チェコなど東欧諸国は、強制的な割り当てに反発しており、EU内に亀裂が生じている。欧州に流入した難民は14年の1年間で約28万人だったが、国際移住機関(IOM)によると、15年は10月時点で70万人を超えたという。最終的に100万人を突破するという推測もあり、英国紙タイムズは、中東難民による危機を「ユーロ危機以来最大の危機」と伝えている。(2015年10月末時点)
(大迫秀樹 フリー編集者/2015年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報