EUの難民問題(読み)いーゆーのなんみんもんだい

知恵蔵 「EUの難民問題」の解説

EUの難民問題

民主化運動「アラブの春」の舞台となった北アフリカ、中東諸国から急増している難民を巡る問題。以前はアフガニスタンソマリアからの難民が目立ったが、2012年以降はリビアシリアからの難民が急増している。10年末にチュニジアで始まった民主化運動は、同国とエジプト、リビアの長期独裁政権を倒したが、リビアは部族間対立が噴出し分裂状態になった。アサド独裁政権が存続しているシリアも、政府軍と「自由シリア軍」を中心とする反政府軍の戦闘が始まり、内戦状態になった。14年からはシリア北中部で国家樹立を宣言した過激派組織「イスラム国」(IS)も内戦に加わり、戦闘は泥沼化の一途をたどっている。
当初、リビア、シリアの難民の多くは周辺国に避難していたが、紛争・内戦収束の見通しが立たないことから、豊かな生活あるいは永住の地を求めて西欧を目指すようになった。主なルートは、航路の「地中海ルート」と陸路の「バルカンルート」(トルコ~東欧経由)。15年に入ると、航路のEUへの玄関口となるギリシャやイタリアの島々には、ボート難民が大挙して押し寄せるようになった。陸路の東欧諸国にもシリア難民が急増したため、入国を拒否する動きが強まり、ハンガリー国境フェンスを築き、クロアチアなども国境の警備を強化している。一方、これまで難民受け入れに消極的だったイギリスは国内外からの批判を受け、難民受け入れ枠の拡大を表明した。
足並みがそろわなかったEUも9月以降首脳会談を重ね、受け入れに積極的な人道主義のドイツに合わせる形で、今後2年間で16万人の難民を加盟国で分担することを決めた。しかしハンガリー、チェコなど東欧諸国は、強制的な割り当てに反発しており、EU内に亀裂が生じている。欧州に流入した難民は14年の1年間で約28万人だったが、国際移住機関(IOM)によると、15年は10月時点で70万人を超えたという。最終的に100万人を突破するという推測もあり、英国紙タイムズは、中東難民による危機を「ユーロ危機以来最大の危機」と伝えている。(2015年10月末時点)

(大迫秀樹 フリー編集者/2015年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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