一般に船が通る道を航路という。原則として2点間の距離が最短のものが選定されるが,地形,気象・海象,経済,航海技術などの諸条件によって制限されるため,船の通航しやすい航路がしだいに固定化してくる。そしてこのように航路が集中してくるに従い,今度は海上交通の安全性の観点から自然発生的なものから人為的なものへと変化していく。航路は世界各地の物流形態に応じて,航路網として組み立てられており,例えば,日本を起点とする場合には,その仕向港に応じて欧州航路,北米航路などと呼ばれる幹線航路とそれに接続する支線航路がある。運用上からは船が定期的に運航する定期航路と不定期に運航する不定期航路があり,そのほか,主として航行する船舶の船種,大きさによって,貨物船航路,タンカー航路,客船航路,大型船航路,小型船航路などと,また,航行区域と関連づけて遠洋航路,近海航路,沿海航路,平水航路などと慣用的に呼称されることもある。
日本で航路という名称が用いられるようになったのは明治以降であり,江戸時代には〈回り〉という言葉が使われ,例えば,江戸~大坂間は〈表回り〉,秋田付近から大坂へは〈北前回り〉などと呼ばれていた。帆船時代には自然的制約が強く,所要日数が不確定のため,定時運航はできなかったが,年間何航海という形で運航されていた。定時運航が行えるようになったのは,汽船が出現してからであり,日本では1870年(明治3)に政府監督の回漕会社が大阪~東京間に月3回の定期航路を開設したのが最初であった。
航路の選定は,航海上の諸情報を基礎に,自船の運航目的に沿うように船長の責任のもとで自主的な判断によって決定されるのが原則である。しかし,一つの航路が,かつて1隻の船が航行していた航路から複数船の航行する航路となり,さらに交通の流れとして多数船を通す航路に変わっていくにつれて,自然的な障害に対する安全性を考慮した航路から衝突の危険を防止し,効率よく船を通す航路へと変化していく。これに伴って,特定の海域では,船長の自主的な判断のできる範囲が制約され,航路の明確化,特別航法の規定,航行援助施設の充実などが必要となってきた。このため,船舶運航の安全性を確保する観点から各種の航路が設けられており,航路航行義務の拘束力,対象船舶の違いなどにより,推薦航路,勧告航路,法定航路などに分けられる。推薦航路は,地形,海潮流,その他自然的条件のみを考慮のうえ,航海の安全のために水路図誌発行者(日本では海上保安庁)が推薦した航路で,海図上に航路線で記載されている。船長はこれにみずからの経験を加えて自船の航路を決定する。勧告航路はIMOなどによって承認され,船舶間の衝突の危険を軽減するために,交通の主流が航行するように勧告されている航路である。一般に,この航路の区域は明確であり,海上衝突予防法の適用のほかに特定の航法が勧告される。法定航路は海域内の安全とその効率的運用のために法令(日本では海上交通安全法や港則法など)で行政当局によって定められる航路である。そこでは航路航行義務,航路内航行船の優先権,航路内の錨泊(びようはく)禁止,航路の横断禁止,航行速力の制限など,さまざまな規則が定められている。勧告航路もその効果をあげるために法定航路へ移行していく傾向にある。海上交通安全法に基づく航路は,浦賀水道航路,明石海峡航路などの主要狭水道に11航路が定められており,また港則法では17港で23ヵ所の航路が定められている。
→海上交通管制
執筆者:原 潔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
船舶の航行する水路をいう。船舶の安全、能率運航に主眼を置いた航法上の航路と、貨物や旅客の運送に重点を置いた海運経営上の航路に大別できる。
[川本文彦]
航海の実施にあたっては、まず航海の目的、自船の状況、気象・海象等の外力の影響、各種の協定や勧告などを考慮して、安全かつ経済的な航路が選定され、この航路に沿って、一定時間または特定の2地点間を船が進むように針路が定められる。したがって、航法上の航路とは、対地的かつ直航化された概念である。
風を動力源とした帆船時代には、風系・海流系などの外力の利用に主眼を置いた帆船航路があり、ある程度は外力に逆らって航行できる汽船時代に入ると、距離の短縮に重点を置いた能率的・経済的な汽船航路が採用されるようになる。このような航路は、出発地と目的地が同じであればただ一つというわけではなく、船の状態、季節などによって数多く選定されるが、多くの船の長期にわたる経験からいくつかの常用航路が自然的に発生する。このうち各種の航海資料や調査に基づいて、安全かつ能率的な航路であるとして各国水路部等が推薦する推薦航路がある。
さらに、多くの船の航路が集中する狭水道や重要港湾の近くで、交通密度の高い海域での衝突や座礁などの事故を防止するため、秩序ある交通流をつくりだす目的で、行き合い船の航路を分離して指定するなど、国際海事機関(IMO)によってこれに従うことを勧告されている「航路指定」があり、ここでは通航路、相互通航路、深水深航路などの用語が用いられている。類似の国内法では、海上交通安全法で適用海域を指定された航路、たとえば中の瀬航路、明石(あかし)海峡航路などがあり、これらを総称して指定航路、分離航路とよぶこともある。
また航路選定や位置測定、航海実施上の差異に着目して、出入港航路、沿岸航路、近海航路、大洋航路などのことばが用いられる。
[川本文彦]
船舶の運航形態により、定期航路、不定期航路、タンカー航路などの用語がもっとも多く用いられるが、このほか、就航路が国内だけか、外国にも及ぶかによって、国内航路、外国航路または国際航路、三国間航路、就航地や地域によってニューヨーク航路、欧州航路、一周航路などとよぶこともある。
また、特定港まで大型タンカーや貨物船で海上輸送を行い、さらに小型の沿岸航行船に積み換えて各地に輸送する場合の幹線航路、支線航路、伊豆七島などの離島に貨客を輸送する離島航路、採算のとりにくい航路などで補助金を受けて運航する補助金航路などもある。
このほか、船舶安全法や船舶職員及び小型船舶操縦者法に関連して、船舶の設備や乗組員の資格を航行区域によって区別し、これに海運経営上の用語が重なって、遠洋航路、近海航路、沿海航路、平水航路などの用語も用いられる。
いろいろな用い方をされるので、時と場合に応じて使い分ける必要のあるきわめてむずかしい用語といえよう。
[川本文彦]
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…航法が必要とされる理由は,第1に移動体を繰り返し同じ地点に導くためであり,第2に移動体を能率よく確実にしかも安全に導くためである。 航法のもたなければならない基本機能は,移動体が通るのに望ましい経路である航路の設定,定められた航路を進むための針路および速力の設定,任意の時間の航路上の予定点からのずれを検出するための位置の決定および環境・外乱を考慮してのずれの修正(針路・速力の変更)に関する機能である。これらの機能は,移動体が通常の船,潜水船,潜水艦,航空機,宇宙船などのいずれであっても,精度の差はあるものの必要である。…
※「航路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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