改訂新版 世界大百科事典 「LET」の意味・わかりやすい解説
LET (エルイーティー)
linear energy transferの略で,線エネルギー付与損失と訳されることもある。荷電粒子放射線が物質中に入射すると,放射線の持つエネルギーは,入射荷電粒子と物質中の電子や原子核との衝突によって失われる。このとき,荷電粒子が物質中を進む経路に沿っての単位長さ当りに失われる放射線エネルギーの割合を阻止能stopping powerと呼ぶが,阻止能は入射放射線のエネルギーの変化とともに変化する。この入射放射線の全飛程にわたっての阻止能の平均値をLETと呼ぶ。LETは荷電粒子放射線の電荷,質量,エネルギーによって変化し,放射線の質の相違を表すのに使用される。このように,本来LETは荷電粒子放射線に対して明確に定義されたものであるが,γ線やX線など電磁波放射線に対しても,その作用で放出される二次電子線の平均的LETを用いて表される。LET値は電荷や質量の大きい荷電粒子では大きく,γ線や高エネルギー電子線では小さい。
放射線のもたらす化学効果や生物効果(放射線生物効果)が,物質によって吸収されるエネルギー量は同じでも,放射線のLETの相違によって変化する場合があり,これをLET効果と呼んでいる。これは,放射線エネルギーの吸収によって物質中に生じる化学種の幾何学的分布がLETによって変わるためと考えられている。放射線の化学作用や生物作用を研究するうえで重要な問題である。
執筆者:石榑 顕吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報