続発性アルドステロン症

内科学 第10版 「続発性アルドステロン症」の解説

続発性アルドステロン症(副腎皮質)

定義・概念
 原発性アルドステロン症が副腎皮質からのアルドステロンの自律的分泌が原因であるのに対して,続発性アルドステロン症は,体液量の減少に伴い,レニン-アンジオテンシン系が活性化されて,正常副腎皮質からアルドステロンの分泌増加が起こる病態を指す.
病型・分類
 続発性アルドステロン症のおもな病型を表12-6-10に示した.レニン-アンジオテンシン系の亢進によるものが大部分であり,その原因としては腎傍糸球体装置における灌流圧の低下が最も多い.灌流圧の低下の機序としては,体液量の減少や浮腫などによる循環血液量の減少と,腎動脈狭窄(腎血管性高血圧)や悪性高血圧などによる腎動脈圧の低下があげられる.後者では,循環血液量は減少していないため,高血圧をきたす.この場合,アルドステロン濃度は他の分泌調節因子の影響を受け,原発性アルドステロン症ほどは増加せず,高血圧症の原因は,アンジオテンシンによる血管収縮作用によるところが大きい.レニン分泌は,β交感神経刺激により亢進する.心不全では,腎灌流圧の低下やβ交感神経刺激から高レニン,高アルドステロン症となり,アルドステロンが心筋細胞に直接作用して心筋の線維化を進め,体液貯留効果と合わさり,心不全を悪化させる.腹水を伴う肝硬変ネフローゼ症候群は低アルブミン血症により血漿浸透圧が低下し,有効循環血液量が減少するため,高レニン,高アルドステロン症を呈する.褐色細胞腫では,カテコールアミン増加により,レニン,アルドステロンの増加をきたす.ステロイド,経口避妊薬,妊娠では肝臓におけるアンジオテンシノーゲン産生が亢進して血漿レニン活性が上昇する.レニン産生腫瘍はきわめてまれな腫瘍で,ほとんどが腎(傍糸球体細胞腫)に発生し若年に多い.
 その他に腎尿細管障害に基づく病態として,Bartter症候群,Gitelman症候群,偽性低アルドステロン症などがあげられる.Bartter症候群は低カリウム血症,代謝性アルカローシス,高レニン血症,高アルドステロン症などを特徴とする尿細管機能障害による症候群である.またGitelman症候群は同様の検査値の異常に加えて,低マグネシウム血症,低カルシウム尿症を伴い,臨床症状も軽く,Bartter症候群と区別されるサブタイプが多い.Bartter症候群は1型:NKCC2,2型:ROMK,3型:ClC-Kbの3種類の太いHenleループの尿細管上皮細胞膜に発現するチャネルや輸送体の遺伝子変異により発症する.難聴を伴うBartter症候群はClC-KaおよびClC-Kbに共通のβサブユニットのBarttinの異常(4型),さらにClC-KaおよびClC-Kbの両方の遺伝子異常(4b型または5型)でも発症する.出生前に羊水過多を認め,早産低出生体重,新生児期の体重増加不良を呈する新生児型(1型,2型,4型)と,乳児期や幼児期に成長障害や感冒時の脱水症状で発見される古典型(3型)に分類されてきたが,実際にはそれぞれの病型が明瞭には分けられない.
 Gitelman症候群は,低カリウム血症と代謝性アルカローシスを呈し,Bartter症候群と比べて低マグネシウム血症を伴う点を特徴とする症候群である.原因遺伝子は,サイアザイド感受性Na-Cl-共輸送体(NCCT)であることが報告され,Bartter症候群と混同されることはなくなった.発症は一般に思春期以降であり,症状が軽度なものは成人になってから血液検査で偶然発見される例もある.多くの症例では,低カリウム血症による筋力低下,低マグネシウム血症によるテタニーを初発症状として発症する.Bartter症候群とは異なり,重度の低カリウム血症や脱水は少なく,腎障害も軽度にとどまる.
 偽性低アルドステロン症(pseudohypoaldosteronism:PHA)はⅠ型とⅡ型に分けられる.PHAⅠ型は,常染色体優性遺伝の腎型PHAと,常染色体劣性遺伝の全身型PHAに分けられる.腎型PHAは,MR遺伝子の不活性化変異である.全身型PHAは,ENaCのαサブユニットの不活性化変異が病因である(同一遺伝子の活性化変異のLiddLe症候群と正反対).PHAⅡ型はGordon症候群ともよばれ,セリン・スレオニンキナーゼWNK1, WNK4遺伝子の変異により,腎皮質・髄質集合管のサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体の活性化が病因である(Gitelman症候群の正反対).腎型PHAは,腎尿細管の先天的なアルドステロン抵抗症のために,新生児期には塩分喪失,高カリウム血症,代謝性アシドーシスをきたす.一方,全身型PHAでは,腎,汗腺,唾液腺,腸管でもアルドステロン抵抗症を示すために,症状の自然軽快はなく,重症の塩分喪失症状,呼吸器感染症を示す.病態生理
 アルドステロンの生理的分泌刺激因子としては,アンジオテンシンⅡ,血清K,ACTHなどがあり,分泌抑制因子としてはドパミン,心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide:ANP),セロトニンなどがある.続発性アルドステロン症のほとんどは,傍糸球体装置からのレニン分泌が腎灌流圧の低下,交感神経活動の亢進,Naの喪失などにより亢進する.循環血液量の減少やNaの喪失に伴うレニン-アンジオテンシン系の亢進は,レニンやアンジオテンシンの代償的増加によって生体の恒常性を保つための反応であり,血圧は上昇しない.しかし,循環血液量の減少を伴わずに,レニン-アンジオテンシン系の亢進をきたす場合は高血圧をきたす.
診断・鑑別診断
 続発性アルドステロン症のほとんどは原疾患によるレニン-アンジオテンシン系の代償作用の結果であり,あくまでも原疾患の診断が優先するが,本症の診断は原疾患の病態生理を理解し,治療方法を決定するために重要である.
1)高血圧性疾患:
腎血管性高血圧症は高レニン性高血圧症の代表的疾患であり,中年以降では動脈硬化症に伴うものが多く,若年女性では大動脈炎症候群線維筋性異形成が多い.レニン産生腫瘍はきわめてまれな疾患であるが,若年者の重症高血圧で著しい血漿レニン活性の上昇を認める場合に疑われる.悪性高血圧症や褐色細胞腫は特有の臨床症状や経過から診断できる.高血圧に伴う続発性アルドステロン症では,レニン-アンジオテンシン系に影響を及ぼす各種薬剤などに留意する必要がある(表12-6-9).
2)浮腫性疾患:
肝硬変,うっ血性心不全,ネフローゼ症候群などの原疾患の診断は容易である.有効循環血液量の減少に伴う代償性のレニン-アンジオテンシン系-アルドステロン系の亢進は浮腫を増悪させ,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン)は浮腫の軽減に有効である.
3)体液量の減少を伴う疾患:
利尿薬や下剤の連用など日常的な病態から,ナトリウム喪失性腎炎,Bartter症候群,PHAⅠ型のようにまれな疾患まで含まれる.病歴,血清電解質,腎機能,レニン,アルドステロン濃度などから鑑別を行う.
治療・予後
 続発性アルドステロン症の治療では,原疾患の治療およびレニン-アンジオテンシン系を亢進させている要因の除去を最優先する.
1)利尿薬,下剤,エストロゲン製剤など:
それらの薬剤を中止する.利尿薬が中止できない場合には,K製剤の追加やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン)や上皮性Naチャネル阻害薬(トリアムテレン)に変更する.
2)肝硬変,うっ血性心不全,ネフローゼ症候群など:
これらの原疾患の治療が基本である.浮腫の軽減をはかるために,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬や利尿薬(フロセミド)が用いられる.特発性浮腫の原因は不明であり,利尿薬の乱用によるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進により病態が増悪する.食塩制限や臥位が有効で,浮腫が強い場合には最小限の利尿薬(フロセミドなど)を用いる.
3)腎血管性高血圧症,褐色細胞腫,レニン産生腫瘍など:
外科的な治療が基本となる.手術適応がない場合は,それぞれ特異的な薬物療法が行われる.腎血管性高血圧に対しては,両側腎動脈狭窄や片腎患者の腎動脈狭窄が除外できれば,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬,レニン阻害薬などの降圧薬により,予後は改善している.褐色細胞腫では,α遮断薬やβ遮断薬を中心に投与する.
4)Bartter症候群,Gitelman症候群:
脱水と血清K値の補正が治療の基本である.K製剤(塩化カリウム)およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン),アンジオテンシン変換酵素阻害薬,プロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬(インドメタシン)を併用する.これらの薬剤は生涯にわたる治療が必要である.[柴田洋孝・伊藤 裕]
■文献
Rossi GP: A comprehensive review of the clincial aspects of primary aldosteronism. Nat Rev Endocrinol, 7: 485-495, 2011.
Shibata H, Itoh H: Mineralocorticoid receptor-associated hypertension and its organ damage: clinical relevance for resistant hypertension. Am J Hypertens, 25: 514-523, 2012.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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