内科学 第10版 の解説
Loeys-Dietz症候群(先天性結合織疾患に伴う心血管病変)
概念
Loeys-Dietz症候群(LDS)は2005年にLoeysらにより報告された,血管系症状(脳動脈,胸部動脈,腹部動脈の動脈瘤・解離)と骨格系所見(漏斗胸または鳩胸,側弯,弛緩性関節,くも状指趾,先天性内反足)に特徴づけられる疾患である.罹患者の約75%は,特徴的顔貌(眼間解離,二分口蓋垂・口蓋裂,頭蓋骨早期癒合症)を呈するLDS 1型であり,約25%は特徴的皮膚所見(ビロード状で透過性の皮膚,アザができやすい,広範で萎縮性の瘢痕)を呈するLDS 2型である.
病因
TGF-β受容体(1型あるいは2型)遺伝子の変異が病因である.発症機序は明らかではないが,TGF-βシグナル伝達異常(機能亢進)による,血管平滑筋機能維持およびリモデリングの障害といわれている.
病理
大動脈血管組織の病理では,弾性線維の断裂,エラスチン成分の消失,中膜における無形基質成分の沈着を認める.
臨床症状
LDS 1型は血管系,骨格系,および頭蓋顔面系所見を呈し,LDS 2型では血管系,骨格系,および皮膚所見を呈する.
主症状は,血管系症状(脳・胸・腹部動脈の動脈瘤・解離・血管蛇行)と骨格系所見(漏斗胸または鳩胸,側彎,弛緩性関節,くも状指趾,先天性内反足)である.血管病変は大動脈に限定せず,脳動脈を含む中小動脈にも認めることが多い.LDS 1型では特徴的顔貌を,LDS2型では特徴的皮膚所見を認める.
大動脈解離,大動脈弁閉鎖不全などによる心不全を認める.大動脈解離については,ほかの類縁疾患に比べ,より若年発症で,大動脈基部拡張がより軽度であっても発生する.さらに女性では,妊娠から産褥期の急性大動脈解離や子宮破裂に注意が必要である.
診断
Loeys–Dietz症候群に特徴的な所見の確認と遺伝子検査による鑑別が重要である.大動脈基部拡張,大動脈瘤・解離,側弯,脊髄硬膜拡張,くも状指などから,Marfan症候群のGhent基準を満たす症例もあるが,水晶体亜脱臼は通常みられず,高身長を認めない例が多い.
経過・予後
Loeys–Dietz症候群の自然歴では,若年発症で進行性の広範な動脈瘤(平均死亡年齢:26.1歳)と,高率の妊娠時合併症(周産期死亡,子宮破裂)に注意する必要がある.
治療
大動脈瘤,慢性大動脈解離に関しては内科的にβ遮断薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬などの降圧薬による血圧コントロールが行われる.大動脈弁閉鎖不全,解離の予防,急性大動脈解離に対しては,弁置換術,大動脈置換術などの外科的治療が選択される.[阿南隆一郎・鄭 忠和]
■文献
Prockop DJ, Bateman JF: Heritable disorders of connective tissue. In: Harrison’s Principles of Internal Medicine, 18th ed (Longo DL, et al ed), pp3204-3214, McGraw-Hill, New York, 2012.
Dean JC: Marfan syndrome: clinical diagnosis and management.Eur J Hum Genet, 15: 724-33, 2007.
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Loeys BL, et al: Aneurysm syndromes caused by mutations in the TGF-β receptor. N Engl J Med, 355
: 788-798, 2006.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報