日本大百科全書(ニッポニカ) 「TARGET」の意味・わかりやすい解説
TARGET
たーげっと
ユーロの導入とともに創設された、ヨーロッパ中央銀行(ECB)とヨーロッパ連合(EU)各国中央銀行からなる、EUの中央銀行間の即時決済システム。Trans-European Automated Real-time Gross Settlement Express Transfer Systemの頭文字をとったもの。汎ヨーロッパ即時グロス決済システムと訳される。設立当初は、EU各国の即時決済システムを相互に連結した形であったが、2008年5月より完全に統合された新システム(TARGET2)へと移行した。非ユーロ圏諸国中央銀行のTARGET2への参加は任意で、2017年末時点でEU24か国の中央銀行が参加している。イギリス、スウェーデンは、旧システムには参加していたが、新システムへの参加は見送った。
EU内の国際決済は、大部分がTARGET2を通じてECBを介する形で行われる。各国間の決済尻(じり)は、ECBに対する当該国中央銀行の債権・債務(TARGET2バランスという)となって現れる。黒字国はECBに対して債権を保有する一方、赤字国には、ECBから自動的な信用供与が行われる。経常収支の赤字や資本流出にみまわれることになった赤字国に対して、ECBがTARGET2を通じて事実上の最後の貸し手機能を果たすことで、危機の悪化を防ぎ、ユーロ圏の安定を支えている。その一方で、ECBに対して巨額の債権を有するドイツでは、同国の同意なしに無条件で無利子の融資が行われているとの批判も根強い。
[星野 郁 2018年11月19日]
『奥田宏司著『国際通貨体制の動向』(2017・日本経済評論社)』