貿易手形の引受業務と海外証券の発行業務を中心にロンドンの長・短金融市場で活躍する金融業者。マーチャント・バンカーmerchant bankerともいう。19世紀初頭,ナポレオン戦争の終結とイギリス産業革命の進展を背景に,ロンドンが国際金融の中心となろうとするころ,有力な貿易商人であるヨーロッパ大陸(とくにドイツ)の富豪たちが来住し,その資力と名声をもとに上記の金融業務を開始したことに起源をもつ。彼らは,まず,手形引受商社acceptance houseとして貿易商人のためにロンドンあて為替手形の引受け(したがって支払保証)を行ったが,国際的に信用のあるマーチャント・バンクが引き受けた手形は優良な銀行手形(イングランド銀行再割引適格手形)とされ,割引市場で容易に資金を入手しうることとなったから,彼らの引受業務はイギリス短期金融市場の発達を支え,貿易金融を円滑にして世界貿易の拡大に貢献した。彼らはまた,欧米諸国の急速な工業化や政治的・軍事的必要にもとづく膨大な資金需要にこたえて,長期外国証券の発行商社issuing houseとしても活躍し,イギリスの海外投資,したがってまた国際収支に貢献した。証券発行にさいして彼らはその引受業者underwriterとして機能し,多くの場合,下請引受業者sub-underwriterのシンジケートを組織して,大規模な発行業務を手がけている。
第1次大戦後,イギリス経済の地盤沈下などで手形引受業務が後退し,外国証券の発行業務も低迷したため,マーチャント・バンクは国内証券の発行引受けに比重を移動した。第2次大戦後,ポンドの地位は一段と低下したが,マーチャント・バンクはニューヨークやスイスの余裕資金を吸収して引受信用を復活し,ユーロダラーを資金源とする債券発行や資本財輸出にともなう中期金融の分野に進出するなど,その業務範囲を拡大しているといわれている。企業の合併,買取りtake-overなどの舞台裏で活躍していることもまれでないし,諸企業,内外政府のコンサルタントとしてその国際的な同族組織などに支えられた情報網を活用してもいる。
引受業務,発行業務をはじめとして,マーチャント・バンクの仕事を特徴づけるのは,信用の保証,支払の保証という仲介機能であり,これによって彼らは現実の資金力よりはるかに巨大な影響力を経済界に振るってきた。とくに,ロスチャイルド,ベアリング,ラザードなど,マーチャント・バンク最上層を構成する引受商社委員会Accepting Houses Committee所属の名門十数社は,発行商社協会Issuing Houses Associationのメンバーを兼ね,イングランド銀行の歴代総裁・理事をはじめ,多くの銀行や保険会社などの役員をその同族団から送りこむなど,シティの金融貴族として名声を博している。その当主の多くは,現実にバロン等貴族の称号をもち,政界との結びつきも薄くはない。
執筆者:関口 尚志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
18世紀末から19世紀前半においてロンドンが国際金融市場としてもっとも華やかなころにロンドン市場を支え、かつそれを代表するマーチャント(商人)で、同時にバンカー(銀行家)のことをいう。その意味で、今日では歴史的な存在と理解したほうが正確であろう。もちろん、かつてのマーチャント・バンクが今日でも生き残ってはいるが、国際金融のなかでの影響力はアメリカの投資銀行に及ばない。
マーチャント・バンクは、初期には貿易手形の引受けやディーリング(金融商品の売買)に関与し、比較的安全度の低い業務をやっていたが、商人でもあることから国際的な取引の情報収集や分析は他の追従を許さなかった。また、彼らは家族の絆(きずな)をたいせつにし、シンジケート団を組織することで危険の分散をしていた。そして、アメリカの投資銀行とタイアップすることによってアメリカでの収益を確保していた。彼らの代表としてベアリングやハンブロ家それにロスチャイルド家などがあげられる。
マーチャント・バンクをみる場合、その盛衰は国際金本位体制と結び付いている。第二次世界大戦後、IMF(国際通貨基金)体制が登場するとともに、国際金融市場での主役の立場をアメリカの投資銀行に譲った。
[石野 典]
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