貿易取引の決済に使われる為替手形を広く指す場合と,第2次大戦後日本が貿易の拡大を図るために日本銀行が金融上優遇した貿易関連手形をいう場合とがある。まず前者についてみると,貿易手形は実務上,輸出為替手形と輸入為替手形(輸出入手形と総称)とに分かれるが,この区分は同一の為替手形に関する輸出地と輸入地での呼称の相違にすぎない。すなわち,輸出貨物の代金を回収するために振り出された為替手形は輸出地では輸出為替手形と呼ばれ,一方この手形は輸入地においては輸入為替手形と呼ばれる。輸出為替手形は,信用状の有無に従い信用状付輸出手形と信用状なし輸出手形,あるいは為替銀行の関与の相違により買取輸出手形と取立輸出手形などに分かれる。一般に,この種の為替手形は,外国への郵送中の紛失・遅着・盗難を防ぐとともに流通を円滑にするため,同一内容の手形が数通(通常,正副の2通)振り出される。これを組手形set billといい,それぞれ別便で相手方に送付される。この各通は同等の効力をもつが,正副いずれでも先に呈示したものによって手形上の権利を行使でき,支払人は先に呈示された手形に対してのみ支払人としての義務を負う。このような組手形に対し1通のみ振り出される手形を単独手形sola billという。
次に,第2次大戦後の日本における優遇貿易金融制度の一つである貿易手形制度についてみると,1946年9月以降日本銀行は,輸出業者が輸出貨物の集荷のために振り出した手形で一定の条件を備えたものを貿易手形と呼び,金利やその他の面で優遇的取扱いを行った。この後,50年1月民間の輸入貿易再開とともに,輸入業者の決済に必要な資金を供給するためにこの制度が準用されるようになり,貿易手形制度は輸出貿易手形と輸入貿易手形に拡充された。その後53年2月輸出貿易手形は輸出前貸手形,輸入貿易手形は輸入決済手形と改称され,前者はさらに72年10月輸出前貸関係準商業手形に改められた。この輸出前貸関係準商業手形制度は,輸出業者が振り出した手形を対象として金融機関が融資を行った場合,その金融機関の資金繰りなどを勘案し,さらに融資枠規制・指導の範囲内で日本銀行がこの手形を商業手形に準ずる手形として担保貸付けを行うものであり,輸出貿易手形制度に比較すると優遇的取扱いの程度は著しく低くなった。なお,円建輸出に関しては本邦通貨表示期限付輸出手形関係準商業手形の制度がある。他方,輸入決済手形制度は,現在日本銀行の担保貸付けに適格な〈輸入決済関係準商業手形〉〈輸入運賃関係準商業手形〉および〈本邦通貨表示期限付輸入関係準商業手形〉を担保として,市中銀行が公定歩合で日本銀行から円資金の貸付けを受ける制度であるが,これらは各銀行の融資枠規制の範囲内にとどまっており,いわゆる制度金融ではない。しかし,78年5月22日から79年12月2日まで,日本の国際収支の大幅黒字化を背景にして(1)輸入金融の円金融シフト促進(為替銀行の対外ポジション(資金ポジション)の改善)や,(2)輸入業者の金利コスト引下げ(輸入の増加による国際収支黒字の縮小)を図るため,上記の各種輸入関係手形を各銀行の融資枠規制の枠外で日本銀行が円資金を供給した。
執筆者:河西 宏之
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もともとは輸出入に伴って振り出された輸出手形(輸出国側)、輸入手形(輸入国側)をさしたが、第二次世界大戦後日本で貿易手形というときは、輸出入上の金融を円滑にするため特例によって認められた金融手形をさす。
輸出品の生産や仕入れに必要な資金を融通するのは本来の貿易金融ではなく、その前段階の金融であるが、第二次大戦直後の金融の逼迫(ひっぱく)した状況下では、この段階の金融を優遇しないと輸出が振るわなくなるおそれがあったので、1946年(昭和21)9月以降日本銀行は輸出業者が輸出品の集荷のために振り出した手形を貿易手形と称して、金利その他の点で他の手形よりも優遇した。これが貿易手形制度の始まりである。その後1950年の民間輸入貿易再開に伴い、輸入業者の輸入手形決済のために必要な資金の供給にもこの制度が準用されることとなった。前者を輸出貿易手形、後者を輸入貿易手形とよんだが、53年に前者は輸出前貸手形、後者は輸入決済手形にそれぞれ改称された。なお、今日一般に貿易手形といわれるものには、以上の手形のほかに、60年の円為替(かわせ)の採用に伴い優遇を認められることとなった円表示期限付輸出手形、円表示輸入手形も含まれる。
[土屋六郎]
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