…これらの民権運動の経験,離脱後の懊悩と漂泊,そして激しい恋愛とキリスト教信仰における心の葛藤は,透谷の詩や文学の革命的ロマンティシズムを,著しく内面化した。89年に,日本最初の長編叙事詩《楚囚之詩(そしゆうのし)》を,91年に世界観的な構想をもった劇詩《蓬萊曲》を書く。92年のエッセー《厭世詩家と女性》に見られる大胆な恋愛観は,当時の若い知識人に大きな衝撃を与えた。…
…情熱と行動の詩人バイロンの後期の抒情詩〈さすらいをやめよう〉や,グイッチョリ伯爵夫人への愛をうたった〈ポー川〉や哀切な辞世のうたは,心に残る佳品である。 日本でもバイロンは早くから紹介され,《マンフレッド》を抄訳した森鷗外の《於母影(おもかげ)》(1889),《シヨンの囚人》を翻案した北村透谷《楚囚之詩》(1889),《チャイルド・ハロルドの遍歴》から構想を得た土井晩翠《東海遊子吟》(1906)などは有名である。【松浦 暢】。…
…彼はロマン主義の本質を,未知な世界や異常な事物などに対する好奇心などの伝奇性に求めているが,そこから森鷗外元祖説は導かれているのである。これに反対して,勝本清一郎は,〈正統なロマン主義〉の性格が,〈自由を求める精神,形式を破壊する精神,保守的勢力に対して革命的な精神,動的な自己主張の精神〉(〈《文学界》と浪曼主義〉)にあると考え,北村透谷の劇詩《楚囚之詩(そしゆうのし)》(1889)から《蓬萊曲(ほうらいきよく)》(1891)へ展開する過程に,その顕著なあらわれを見ている。この勝本の立場からは,佐藤春夫がロマン的作品として高く評価する鷗外青年期の訳詩集《於母影(おもかげ)》(1889)や小説《舞姫》(1890)は,その静的な形式美,節度,保守,妥協への希求,抒情への傾向において,酷評されざるをえない。…
※「楚囚之詩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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