日本大百科全書(ニッポニカ) 「シオン」の意味・わかりやすい解説
シオン(キク科)
しおん / 紫苑
[学] Aster tataricus L.f.
キク科(APG分類:キク科)の多年草。茎は直立し、高さ1~2メートル。上部で多数分枝し、大形の散房状花序をつける。根出葉は大きくて、栽培のものでは65センチメートルに達するが、花期には枯れる。葉は長楕円(ちょうだえん)形で、基部がしだいに狭くなり、葉柄に移行して翼となる。茎葉は狭小でやや無柄となり、上に移るにつれて線形となる。8~10月、径3~3.5センチメートルの頭花を開く。中央の管状花は黄色、周辺の舌状花は淡紫色である。朝鮮半島、中国東北部を中心とする北部中国、モンゴル、シベリアに分布し、日本では九州と中国地方の山地の湿草原にまれに生育する。地下にある短くやや肥厚した根茎を乾燥したものを漢方で紫苑という。平安時代から観賞用としても栽培されている。
[小山博滋 2022年2月18日]
文化史
根にアスターサポニン、シオノン、ケルセチンなどを含み、鎮咳(ちんがい)、去痰(きょたん)、利尿の効能があり、中国では古来、薬草として扱われた。『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』(500ころ)にすでに取り上げられ、日本には平安時代の初めまでに渡来した。『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(901ころ)に紫苑、和名加乃志太(かのした)と出る。「かのした」は、葉を鹿(しか)の舌に見立てた名と思われる。『今昔(こんじゃく)物語集』に、亡父をいつまでも思い出すようにと墓にシオンを植えた男の話が載るが、これはシオンの中国名の一つ返魂(はんごん)草にちなんだ説話であろう。
[湯浅浩史 2022年2月18日]
シオン(スイス)
しおん
Sion
スイス南西部、バレー州の州都。人口2万7471(2001)。ローヌ川の河谷中央部右岸、標高510メートルの地に位置する。南のペンニン(ワリス)・アルプスから張り出した岩層ペンニンデッケンの残存部であるバレール、トゥルビヨンの二つの丘の山麓(さんろく)をシオンヌ川が流れ、旧市街はその扇状地上にのっている。1830年以降、城壁、塔、門が取り払われて、市域は扇状地からローヌ谷底平野の安全な部分に拡大。政治・商業都市の性格が強いが近年は工業もおこり人口が急増し、1960年以降の20年間で40%も増えた。バレールの丘にはノートル・ダム・ド・バレール聖堂(シオン城)がある。
[前島郁雄]