シオン(読み)しおん

デジタル大辞泉 「シオン」の意味・読み・例文・類語

シオン(Zion)

パレスチナ地方の古都エルサレム南東部の丘。ダビデ王が祭壇を築いて以来、聖なる山となった。エルサレムの象徴となっている。シオンの丘。シオンの山。

シオン(Sion)

スイス南西部、バレー州の都市。同州の州都商工業、ワイン生産が盛ん。旧市街を見下ろす二つの丘にあるバレール教会トゥルビヨン城をはじめ、歴史的建造物が数多く残っている。

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精選版 日本国語大辞典 「シオン」の意味・読み・例文・類語

シオン

  1. ( Sion ) エルサレムの南東にある丘。紀元前一〇〇〇年ころ、ダビデが居城を、また、ダビデの子ソロモンエホバ神殿と壮大な宮殿を建設したところ。以来、聖なる山としてユダヤ民族の生活・信仰の中心となり、エルサレムおよび全イスラエルの象徴として、一九世紀末にはシオニズム運動を生んだ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シオン」の意味・わかりやすい解説

シオン(キク科)
しおん / 紫苑
[学] Aster tataricus L.f.

キク科(APG分類:キク科)の多年草。茎は直立し、高さ1~2メートル。上部で多数分枝し、大形の散房状花序をつける。根出葉は大きくて、栽培のものでは65センチメートルに達するが、花期には枯れる。葉は長楕円(ちょうだえん)形で、基部がしだいに狭くなり、葉柄に移行して翼となる。茎葉は狭小でやや無柄となり、上に移るにつれて線形となる。8~10月、径3~3.5センチメートルの頭花を開く。中央の管状花は黄色、周辺の舌状花は淡紫色である。朝鮮半島、中国東北部を中心とする北部中国、モンゴルシベリアに分布し、日本では九州と中国地方の山地の湿草原にまれに生育する。地下にある短くやや肥厚した根茎を乾燥したものを漢方で紫苑という。平安時代から観賞用としても栽培されている。

[小山博滋 2022年2月18日]

文化史

根にアスターサポニン、シオノンケルセチンなどを含み、鎮咳(ちんがい)、去痰(きょたん)、利尿の効能があり、中国では古来、薬草として扱われた。『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』(500ころ)にすでに取り上げられ、日本には平安時代の初めまでに渡来した。『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(901ころ)に紫苑、和名加乃志太(かのした)と出る。「かのした」は、葉を鹿(しか)の舌に見立てた名と思われる。『今昔(こんじゃく)物語集』に、亡父をいつまでも思い出すようにと墓にシオンを植えた男の話が載るが、これはシオンの中国名の一つ返魂(はんごん)草にちなんだ説話であろう。

[湯浅浩史 2022年2月18日]



シオン(スイス)
しおん
Sion

スイス南西部、バレー州の州都。人口2万7471(2001)。ローヌ川の河谷中央部右岸、標高510メートルの地に位置する。南のペンニン(ワリス)・アルプスから張り出した岩層ペンニンデッケンの残存部であるバレール、トゥルビヨンの二つの丘の山麓(さんろく)をシオンヌ川が流れ、旧市街はその扇状地上にのっている。1830年以降、城壁、塔、門が取り払われて、市域は扇状地からローヌ谷底平野の安全な部分に拡大。政治・商業都市の性格が強いが近年は工業もおこり人口が急増し、1960年以降の20年間で40%も増えた。バレールの丘にはノートル・ダム・ド・バレール聖堂(シオン城)がある。

[前島郁雄]


シオン(エルサレム)
しおん
iyyôn ヘブライ語
sin ギリシア語

元来、エブス人の町エルサレムの南東の丘をさしたが、ダビデ(前10世紀)が同市をエブス人から奪取し、王都と定めてから(『旧約聖書』「サムエル記」下5章7節)、シオンはイスラエル民族の宗教的中心となり、やがて全市の総称として「神の都」を意味するようになった(『旧約聖書』「詩篇(しへん)」48篇2節、69篇35節など)。また詩文中の「シオンの娘」はエルサレムの住民をさす(「イザヤ書」37章22節ほか)。『新約聖書』では、シオンは天における神の都を意味する(「ヨハネ黙示録」14章1節)。

[定形日佐雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「シオン」の意味・わかりやすい解説

シオン (紫菀)
Aster tataricus L.fil.

キク科の多年草。日本では古く平安時代より庭植えにして観賞され,また切花としても用いられるほか,その根は薬用として利用されている。変種に矮性(わいせい)のコジオンがある。高さ1.5~2mぐらいの茎を直立させ,秋に茎上に径2.5cmほどの藤紫色の頭状花を散房花序をなして咲かせる。葉は先のとがる長楕円状の披針形で大きく,根生するが,茎葉は小型で互生する。朝鮮からシベリア,モンゴルにかけて分布し,日本でも九州や中国地方に野生しているが,本来の野生品か,導入されたものが野生化したものかは,はっきりしない。繁殖は株分けにより,一般には3~4月に行う。生育中に1~2回追肥する程度でよく,茎は長く伸びるが,強直で,支柱を立てる必要はない。薬用として鎮咳(ちんがい),去痰に利用され,根を煎じて服用する。コジオンは草丈50~60cm。きわめてじょうぶな耐寒性宿根草で,向陽地であればどこでもよく育つ。

 またシオン属Asterには,花屋でシロクジャクまたはクジャクソウと呼ばれるものがある。高さ1.5m以上,茎は木質化し,よく分枝する。夏~秋,枝先に径1.5cmほどの白い頭花を多数つける。
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シオン
Zion

エルサレムの古い別称。ダビデ王が征服したエブス人の町エルサレムは,今日の旧市街の外,三方を深い谷で守られた南東の丘にあって〈シオン要塞〉と呼ばれていた。ダビデはこれを〈ダビデの町〉と呼んだが(前1000年ころ),イスラエルの詩人たちはシオンをエルサレムの愛称として好んで用いた。後に祖国を追われたユダヤ人にとって,シオンはパレスティナへの帰還と民族国家再興の夢と希望とを指す言葉となり,19世紀末のシオニズム運動を生んだ。
シオニズム
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百科事典マイペディア 「シオン」の意味・わかりやすい解説

シオン

エルサレムの古い別称。もとはダビデ王が征服したエルサレム南東の丘を占めるエブス人の城塞(じょうさい)(《サムエル後書》5の6)の名だが,のちエルサレム全市街の名称となった。また象徴的には天にある神都の意。〈シオンの娘ら〉はエルサレム市民の詩的表現。のちに祖国を追われたユダヤ教徒は,パレスティナへの帰還の夢をこの言葉に託し,シオニズム運動を生んだ。

シオン(紫苑)【シオン】

キク科の多年草。中国地方と九州の山の湿地にややまれにはえ,朝鮮半島,中国東北部,モンゴルに分布する。高さ1〜2m,根出葉は大型楕円形で,上部ほど葉は小さい。8〜10月,小枝の先に径3〜3.5cmの頭花を多数開く。舌状花は淡紫色,筒状花は黄色。庭園,花壇に植えられ,切花にもされる。株分けでふやす。日本のものは自生か,薬用・観賞用に持ちこまれたものかははっきりしない。なお,近縁のユウゼンギクやネバリノギクなどをもとに多くの交雑品種が作出され,ミケルマスデージーの名で栽培されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シオン」の意味・わかりやすい解説

シオン(紫苑)
シオン
Aster tataricus; starwort

キク科の大型の多年草。観賞用としてよく栽培される。アジア東部の温帯に分布し,日本では中国地方および九州の山地に自生がみられる。大型で匙形の根出葉があり,葉身の長さは 20~30cm,縁にあらい鋸歯があり,表面はざらつく。長い葉柄にはひれ状の翼がある。茎の高さは1~2mに達し,茎葉は上部のものほど小さく無柄となる。秋に,散房花序をなして多数の頭状花をつける。頭花は径2~3cmで外周に十数個の淡紫色の舌状花が並び,中央には黄色の管状花がある。根は咳止めとして薬用にされる。

シオン
Zion

聖書に出てくる丘の名。エルサレム南東にあるこの丘はエブスの要害であったが,ダビデが占領して「ダビデの町」と名づけ,そこに契約の櫃を置いた。ソロモンがこの町の北にあるモリア山に神殿を建ててからは,この山がシオンと呼ばれた。のちにこの名はエルサレムの町全体を,そして「シオンの娘」という表現はその住民をさすようになった。またシオンは神の住む丘であることから「神の都」を意味する象徴的な言葉としても使われている。

シオン
Sion

ドイツ語ではジッテン Sitten。スイス南部,バレー州の州都。6世紀後半に司教座がおかれ,999~1798年シオン司教領の中心であった。市はローヌ右岸の小高い丘を囲んで広がり,13世紀の古城跡,ノートル・ダム大聖堂など歴史的建造物が多い。野菜,果実,ワインの集散地。人口2万 5350 (1990) 。

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世界大百科事典(旧版)内のシオンの言及

【エルサレム】より

… 前4千年紀から居住の形跡が見られ,中期青銅器時代には町が形成された。前1000年ころ,ダビデ王が,エブス人が支配していたエルサレム南東の丘の要害シオンを征服して新しく〈ダビデの町〉と名づけた。エルサレムは統一されたばかりのイスラエル王国の首都となった。…

【ユダヤ教】より

… 前13世紀末に,イスラエル人はカナンに侵入して〈約束の地〉に定着したが,前1000年ころ,ユダ族出身のダビデが王となり,シリア・パレスティナ全域にまたがる大帝国を建設し,エルサレムを首都に定めた。その子ソロモンが,エルサレムのシオンの丘に主の神殿を建立すると,主はダビデ家をイスラエルの支配者として選び,シオンを主の名を置く唯一の場所に定める約束をした,と理解された(〈ダビデ契約〉)。ここから,〈メシア〉(原義は〈即位に際して油を注がれた王〉)が,世の終りにダビデ家の子孫から現れるという期待と,エルサレム(シオン)を最も重要な聖地とする信仰が生じた。…

※「シオン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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