貿易戦争(読み)ぼうえきせんそう

知恵蔵 「貿易戦争」の解説

貿易戦争

国家(地域)間の貿易不均衡から生じた経済的対立状態(深刻な貿易摩擦)を戦争にたとえた表現。2018年3~4月に激化した米中の経済対立を指すことも多い。貿易赤字国が輸入制限や関税引き上げなどの措置を講じたことを端緒に、相手国が対抗策として同等又はそれ以上の制裁措置を発動することで起こる。
1980~90年代、日本製半導体・自動車輸出をめぐって激化した日米貿易摩擦の際には、米国が通商法301条、スーパー301条の発動に踏み切ったことに対し、日本は輸出規制を行い、自動車・電気機器関連企業にも現地生産への転換を促すといった政策を進めた。貿易摩擦はこうした日本側の譲歩によって収束に向かったが、貿易戦争は互いに譲ることなく、保護主義の動きを世界中に拡大させる恐れもあるため、国際経済に与える影響も計り知れない。
前述の米中の経済対立は、米・トランプ政権が18年3月、安全保障上の懸念を理由に中国製鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を発動したことがきっかけで起こった。対して、中国の習近平政権も翌4月、米国製品128品目に高関税を上乗せするという制裁措置を表明。さらにトランプ政権は、中国による米国企業の知的財産権侵害を理由に、輸入約1300品目に25%の関税を上乗せさせるという方針を発表した。世界貿易機関(WTO)の協定違反の可能性が指摘される通商法301条に基づく強硬的な対抗策である。これに習近平政権も、米国の航空機・自動車・農産物などに、同額相当の25%の関税を課すとして応酬。中国は2001年に世界貿易機関に加盟したが、米国が問題視する知的財産権侵害や不公平貿易の是正は進まず、米国の対中貿易赤字も増加する一方。米国の貿易赤字総額の半分弱を占める3752億ドル(17年)にまで膨らんでいる。

(大迫秀樹 フリー編集者/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報