改訂新版 世界大百科事典 「貿易不均衡」の意味・わかりやすい解説
貿易不均衡 (ぼうえきふきんこう)
trade imbalance
imbalance in trade account
一国の対外経済取引は国際収支表に示される。このなかで商品およびサービスの取引を示す貿易収支や貿易外収支に輸出または輸入超過がある状態を貿易不均衡という。また国際経済理論で2国2財の抽象的な理論モデルを想定する際に,自国の超過需要が他国の超過供給によって過不足なく相殺されない場合,貿易不均衡にあるという。対外経済取引の一部にすぎない貿易取引の不均衡がとくに重視されるのは,貿易収支が多くの国の国際収支の主要部分を占めているためである。また輸出拡大はその生産にたずさわる人々に雇用機会を提供することになるし,逆に輸入品の増加によって生産縮小を余儀なくされれば失業が生まれるかもしれない。貿易不均衡がしばしば先進国間経済摩擦の原因となるのは,このためである。多くの発展途上国では,経済開発を進めるために必要となる輸入需要が輸出を上回るため慢性的な貿易不均衡に悩んでおり,外貨不足は経済成長のボトルネックとなっている。
日本の場合も,第1次大戦期を除いて第2次大戦から1950年代後半までは貿易収支は赤字不均衡にあった。しかし国際競争力が強化された58年ころからようやく黒字へと転じ,60年代の高度成長期に急速に黒字幅を拡大していき,70年代に入ると大幅な黒字不均衡と外貨準備の急増は円切上げ圧力を高める結果となった。73年秋の石油危機後の貿易収支は一度は赤字になったものの,国内景気の停滞と省エネルギーの進行による輸入の落込みと輸出の立直りによって,貿易黒字不均衡はとくに対米貿易に関して顕著になり貿易摩擦の一因となった。
執筆者:佐々波 楊子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報