大学スポーツ(読み)だいがくスポーツ(英語表記)collegiate athletics;

大学事典 「大学スポーツ」の解説

大学スポーツ
だいがくスポーツ
collegiate athletics;

日本大学スポーツ

日本古来の武道遊戯を除けば,日本において欧米から入ってきたスポーツが普及・発展する契機の場となったのは大学である。1873年(明治6)アメリカ人のホーラス・ウィルソン,H.開成学校(現,東京大学)に野球を紹介し,それが高等教育機関を中心に広まっていった。一方,1880年代前半には,イギリスからの影響を受けて帝国大学(現,東京大学)ボートレースと陸上運動会が開催されていた。現在「部活動」と呼ばれている組織化された大学スポーツの基盤となったのは,1886年9月に学生自治のスポーツ団体である帝国大学運動会が発足したことである。そして1892年に7部構成の慶應義塾体育会が組織化され,96年に東京高等師範学校(現,筑波大学)で運動部を統括する運動会が設立され,97年には東京専門学校(現,早稲田大学)が体育部を創設した。

 1903年から始まった早稲田大学と慶應義塾大学による野球の対抗戦は多くの観客を集め,その後の日本におけるスポーツを観戦するという習慣の定着に大きく寄与した。また同時に大学スポーツは,勝利を目的とする競技スポーツ志向へと進んでいった。その結果,学生選手にとっては学問とスポーツの両立が困難になり,さらには競技の内外においての倫理に反する行動も目立つようになった。また最近では,各大学はメディア露出が高い競技およびその学生選手を広告塔として受験生募集に活用する動きを活発化させるようになった。このような問題点を制御できない原因の一つが,アメリカにあるNCAA(National Collegiate Athletic Association: 全米大学体育協会)のような全国統括団体がないことである。日本では各競技団体の下部組織である学生連盟が存在するだけで,実際の部活動の運営は各大学が個々の基準によって行っている。

 日本のスポーツが,学校主体から企業を母体とする企業スポーツおよびプロスポーツへと移行し,優秀な選手が大学進学せずに,高等学校から直接に企業チームやプロチームへ進むようになり,人々の大学スポーツへの関心が低下した。ただし,一部には引き続き高い人気を保つ競技もあり,その一つが東京箱根間往復大学駅伝競走,通称箱根駅伝である。1987年(昭和62)から全国完全生中継されており,約30%の平視聴率に,2日間で100万人以上の観衆を集める。これは世界でも類を見ない大規模な大学スポーツ・イベントである。

[アメリカのカレッジ・スポーツ]

世界で唯一,大学スポーツがプロスポーツと同等の規模で経営され,人気を博しているのがアメリカである。そのカレッジ・スポーツの経営基盤を支えている組織が前述のNCAAである。NCAAは,IAAUS(Intercollegiate Athletic Association of the United States: 合衆国大学間体育協会)として1906年に設立され,10年に名称変更された。全米のカレッジ・スポーツを統括するNCAAには1万8000以上のチームが所属し,45万人以上の学生選手が含まれている。競技レベルと運営規模がともに高いDivision Ⅰから,Division Ⅱ,Ⅲまで各大学が分けられ,Division Ⅰに所属する大学には保有する競技数や施設に関する条件などがある。その中には10万人収容のアメリカンフットボールスタジアムや,2万人以上収容可能なバスケットボールアリーナキャンパスに保有している大学もある。

 NCAAは,学生選手の学業に関してもさまざまな規制を整え,奨学金の給付などの支援も行っている。学業の推進に関しては,たとえばDivision Ⅰの学生選手には,年次ごとの最低修得単位数が設定されており,各大学が設定している基準となるGPA(Grade Point Average)を上回る成績を収め続ける必要がある。これらの学業に関する条件を満たさなければ,試合や練習への参加が制限される。

 各大学には,学内の統括団体として競技スポーツ局(アメリカ)(Department of Athletic)が設置されている。ここには多くの専任スタッフが所属し,医療サービスやコンディショニングなど,学生選手の競技活動を支援する部署だけでなく,マーケティング,チケット販売,施設管理などのマネジメント関連部署も存在し,多様な役割を果たしている。この競技スポーツ局の総収入は,多い大学では100億円を超える(2009~10年報告ではテキサス大学が最高額の1億4355万5354ドル)。収入のほとんどがアメリカンフットボール,一部が男子バスケットボールによるものである。アメリカンフットボールの1試合平観客数が10万人を上回る大学が複数あることからも,競技スポーツ局の収入の多さ,そして日本とは比較にならないアメリカのカレッジ・スポーツの経営規模の大きさがよく理解できる。
著者: 松岡宏高

参考文献: 友添秀則編「特集 変貌する大学スポーツ」『現代スポーツ評論』14,創文企画,2006.

参考文献: 中村敏雄,髙橋健夫,寒川恒夫,友添秀則編『21世紀スポーツ大事典』大修館書店,2015.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報