アイベックス(読み)あいべっくす(英語表記)ibex

翻訳|ibex

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アイベックス」の意味・わかりやすい解説

アイベックス
あいべっくす
ibex

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目ウシ科に属する山岳性野生ヤギ7種類の総称。種類としては、アルプスアイベックスCapra ibex、シベリアアイベックスC. sibirica、スペインアイベックスC. pyrenaicaヌビアアイベックスC. nubianaカフカズツールC. caucasica、ダゲスタンツールC. cylindricornis、ワリアC. walieの7種を含む。学者により5種類とする説もある。分布はヨーロッパ・アルプス、カフカス、インド北西部、カシミール、ヒマラヤ、天山、アルタイモンゴルシリアパレスチナアラビアスーダンなどの山岳地帯で、標高500~5000メートルに達し、草食獣の仲間ではもっとも高い所に生息する。体格は全体にがっしりとしており、頭胴長1.3メートル、体高90センチメートル、雌雄ともに角(つの)がある。角はこの類に特徴的で、雄の角は三日月形に後下方に湾曲し、その長さは1メートルを超えるものも多い。角の外側表面には多数(12~24本)の竹の節状の隆起がある。体毛は灰褐色であるが、地方により差があり、季節によっても変化する。高山万年雪の下方限界である雪線近くに小群ですむが、繁殖期以外は雄と雌は離れて生活する。岩山での行動は敏捷(びんしょう)で、険しい岩場を巧みに走り回る。発情は7~10日間続き、この間、雄はハレムをつくるための激しい戦いを行う。妊娠期間は150日前後で、1~2子を産む。子は、子ヤギほどの大きさで灰色綿毛に覆われ、生後すぐに親について走ることができる。食性は草食で、草や低木の葉を好んで食べる。海外での飼育例は多いが、日本では1959年(昭和34)多摩動物公園で飼育され繁殖した例があるのみである。

中川志郎

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アイベックス」の意味・わかりやすい解説

アイベックス
Capra; ibex

偶蹄目ウシ科ヤギ属に属する野生のヤギ類の総称。肩高 90cm内外。角は後方に伸び,角の前面に幅の広い平らな部分があり,タケの節のような瘤状の隆起がある。フランスとスペインの高山にいるスペインアイベックス C. pyrenaica,ヨーロッパアルプスのアルプスアイベックス C. ibex,小アジア,インド,中央アジア,モンゴル,バイカル湖付近のシベリアアイベックス C. sibirica,シリア,アラビア,ヌビアに分布するヌビアアイベックス C. nubianaなどがいる。すべて高山に適し,野生のヒツジ類よりもけわしい岩場にいる。草類または木の葉を食べる。

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