ヨーロッパ西部、イベリア半島の付け根を西北西―東南東の方向に走る大山脈。北のビスケー湾から南の地中海まで約430キロメートルにわたる。フランスとスペインの国境をなし、東部国境には小国アンドラが位置する。
[田辺 裕・滝沢由美子]
ピク・デュ・ミディ山塊より東の山脈中央部は中軸地帯とよばれ、最高峰のアネト山(3404メートル)をはじめマラデッタ山(3309メートル)、ペルディード山(3355メートル)など、3000メートルを超す高峻(こうしゅん)な山々が連なる。基盤は古生代の、とくにバリスカン造山運動により形成された山塊であり、現在の山脈は新生代に入っておこったアルプス造山運動に伴う隆起により形成され、片麻(へんま)岩、粘板岩、石灰岩、花崗(かこう)岩よりなる。南北斜面は非対称をなし、北側斜面のほうが急で、中央部山麓(さんろく)にはランヌムザン大扇状地が形成されている。南側はエブロ川低地に向かい、何列もの小山脈や山麓面が連なる長い斜面をなしている。西部のバスク・ピレネーは1000~2000余メートル、東の地中海ピレネーのカニーグ山(2785メートル)周辺では三つの支脈に分かれ、徐々に高度を下げている。これらの部分では古くから峠道による南北交通が盛んであり、それぞれバスク人、カタルーニャ人が南北両斜面に居住してきた。稜線(りょうせん)上には圏谷(カール)が並び、西で1400メートル、東で2000メートル以上に第四紀の氷食地形がみられるが、現在の雪線高度は西で2700メートル、東で3100メートルである。
[田辺 裕・滝沢由美子]
森林限界は中央部で2500メートルぐらいであり、それ以上では矮性(わいせい)低木林や草地となる。植生は、バスク・ピレネーではエニシダ、ユーカリなどのみられる湿潤温帯林であるが、中央ピレネーでは南北で植生が異なる。北側では、山麓でブナや野生カエデ、山腹800~1600メートルでアカマツやモミを含むブナ林を特徴とするのに対して、南側では、山麓でセイヨウヒイラギガシやコルクガシ、常緑樹、山腹でクロマツが卓越する。また、原生の植被が一度破壊され、15世紀ごろよりドイツトウヒが植林されている所が多く、谷間や盆地ではトウモロコシ、小麦、それより高所ではライムギが栽培されている。また、南側および地中海側ではオリーブ(800メートルまで)、ブドウ(1000メートルまで)、アーモンド、イチジクなどが栽培されている。農業、牧畜を主産業とする地域であるが、水力発電所の建設や天然ガスの採掘、旧来の温泉保養客に加え、自動車道建設に伴う夏の観光客や冬のスポーツ客の増加により、経済は変化しつつある。
[田辺 裕・滝沢由美子]
『テーヌ著、杉冨士雄訳『ピレネ紀行』(1973・現代思潮社)』
フランスとスペインの国境に位置する山脈。イベリア半島のつけねを東西方向に地中海からビスケー湾まで延長約430kmにわたってつづく。最高峰はマラデッタ山塊のピコ・デ・アネト(スペイン領)で標高3404m。ピレネー山脈の西方にはカンタブリア山脈がつづく。ピレネー山脈は第三紀始新世以来のアルプス造山運動に伴う隆起により形成された。ピク・デュ・ミディ・ドソー以東の中央部は山頂高度も高く3000m級の峰々がつづき,古生層,花コウ岩などの基盤岩石からなり中軸地帯とよばれる。その南北両側には,中生代,第三紀の堆積岩地帯が分布する。山脈の北側斜面は南側にくらべてより湿潤で急傾斜で,中央部山麓にはランヌムザンの大扇状地が形成されている。稜線上には氷河の浸食作用で形成された圏谷(ガバルニー圏谷が有名)が並び,それにつづくU字谷が深い谷を刻みこんでいる。南側斜面は北側より緩やかで乾燥しており,エブロ盆地に向かって河川が南流し,多数のダムが建造されている。両端の海岸沿いや中央ピレネー以外では峠道によって南北の交通も盛んで,西部にはバスク人,東部にはカタルニャ人が南北両斜面に居住してきた。現在も山脈を横断する多くの自動車道路や鉄道が建設されているが,山脈を縦断する道路は少ないため東西方向の交通の便は悪く,谷筋ごとに孤立する傾向が強い。アンドラはこのような谷を中心に成立した国である。スペイン側斜面は経済的に後進地域であり,山地から西のビルバオや東のバルセロナなどの海岸の都市へ人口が流出している。フランス側では,山地斜面での牧畜と山中の谷間の温泉保養地のサービス業が主要な産業だったが,最近,水力発電所の建設や天然ガスの採掘などにより経済が変化しつつある。
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執筆者:米倉 伸之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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