日本大百科全書(ニッポニカ) 「アニー・ホール」の意味・わかりやすい解説
アニー・ホール
あにーほーる
Annie Hall
アメリカ映画。監督ウディ・アレン。1977年作品。しばしばフランスのヌーベル・バーグや作家主義の流れをくむアメリカ映画界の“Auteur”(映画作家)とも称されるウディ・アレンの作家性を世に知らしめた出世作。アレンが監督、主演、脚本、編集、キャスティングと、作品のほとんどの構成要素を占めている。作品内に自伝的な自己投影を行い、自身が主演し、そして自らが抱える精神的苦悩や人間関係を疑似的にドキュメントしたものが物語の基盤となっている。作品を通して、過去の出来事や取り留めのない日常的なやりとりなどのドキュメント仕立てのシーンが続き、アルビー(ウディ・アレン)とアニー(ダイアン・キートンDiane Keaton、1946― )との二人の揺れ動く恋愛関係の全体像が徐々に明らかとなる。無声映画のように字幕を使って登場人物の心の叫びを可視化したり、突然画面を二分割して、離れた複数の位置空間を同時進行させたりと、あらゆる方法でこれまでの伝統的な映画的文法や概念を打ち破ってみせている。また、ニューヨークなどの大都市を舞台に、厳粛なドラマとシニカルなコメディ要素を組み合わせた物語構成は、後のロマンティック・コメディ様式の先駆けともいえる前衛的な作品である。1977年、アカデミー作品賞、監督賞など4部門受賞。1978年(昭和53)日本公開。
[堤龍一郎]