アラゴ遺跡(読み)あらごいせき(英語表記)Arago site

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラゴ遺跡」の意味・わかりやすい解説

アラゴ遺跡
あらごいせき
Arago site

南フランス、ピレネー山脈東端の北麓(ほくろく)に広がるカルスト地形内の洞穴遺跡。古くから注目されていたが、1964年からフランスのリュムレイ夫妻Henry & Marie-Antoinette de Lumleyのもとで、多数の研究者の参加を得て組織的に発掘が続けられた。ミンデル氷期(約40万~55万年前)ころより形成されたとみなされる堆積(たいせき)層が11メートルの厚さにわたっており、莫大(ばくだい)な量の文化遺物、自然遺物を埋蔵しているため、いまだその全貌(ぜんぼう)を明らかにできない。石器大部分は石英片を利用した粗雑な小石器であるが、ルバロワ技法(石器製作の一技法で約20万年前からヨーロッパとアフリカに広くみられ、アフリカでは2000~3000年前まで続いた)はまだ認められない。尖頭器、彫器、掻器(そうき)、チョッパーなどさまざまな石器がみられるが、石核石器はまれで握斧(あくふ)もほとんどみられない。その文化はアシュレアン(前期旧石器時代の文化の一つでヨーロッパでは10万~20万年前に栄えた)やタヤシアン(中期旧石器時代の文化の一つで約10万年前にみられる)に対比されるが、独特のものであるとする向きもある。草食獣をはじめとして動物化石が多種多様で、植物相も寒冷乾燥な気候から比較的温暖な地中海気候までの植物を含んでいることから、本遺跡の長期間存続がうかがえる。

 重要なのは化石人骨であり、本遺跡の属する村の名に基づいて、トータベル人Tautavel manと称される。多数の人骨片が発見されており、これらは原人から旧人への移行を示しているとみられている。とくに1971年に出土した頭骨は顔面骨と脳頭蓋(のうとうがい)前部とからなり、1998年の時点でヨーロッパ出土最古の顔である。眼窩(がんか)上隆起の発達や突顎(とつがく)性は旧人をしのぎ、推定頭蓋容量は1150ミリリットルで原人と旧人との中間値を示す。トータベル人骨は全体として小児、若者が多い。年代測定には問題があるが、30万~50万年前と考えられている。

[香原志勢]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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