日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラビア音楽」の意味・わかりやすい解説
アラビア音楽
あらびあおんがく
アラビア半島とその北部のアラビア人による音楽。ペルシア、トルコ、エジプトの音楽とは長い間の相互影響関係にあり、また北アフリカ一帯やヨーロッパの音楽にも大きな影響を与えてきた。古典芸術音楽の理論化はすでに8世紀ごろから始められ、アル・ファーラービーによる『音楽の大書』など重要な著作が残されている。その際「ウードの指板」が図表として用いられ、振動弦の数学的区分に基づいて、テトラコードや中立3度、中立6度音程を含む音組織が整備された。アラビア芸術音楽は、旋法や旋律を基礎づけるマカーマートとよばれる体系に基づいて演奏される。マカーマートを構成する多くのマカームは、音階、音域、音進行、主音、旋律型などを示すものである。リズムは、さまざまな拍やアクセントの組合せからなる多くのリズム型(イーカアート)に基づくが、全体として一定の周期を形成するよう体系づけられている。主要な音楽形式としては、弦楽器独奏による自由リズムの即興演奏部分であるタクシーム、管弦合奏による固定リズムのバシュラフ、器楽伴奏によって即興的に古典詩の朗唱を行うカシーダなどからなる組曲(ナウバ)がある。また、これら芸術音楽があまり及んでいない地域では、遊牧民(ベドウィン)や定着農耕民、漁労民による固有の民俗音楽も盛んである。
アラビア音楽全般に使用されるおもな楽器には、弦鳴楽器のウード、カーヌーン、タンブール、ラバーブ、気鳴楽器のナイ、ザムル(双管クラリネット)、膜鳴楽器のドゥフ、ダルブカ、ナッカーラ(椀型(わんがた)太鼓)、体鳴楽器のカーサート(シンバル)などがある。
[山田陽一]