たとえば英語や日本語では,5万ないし10万の単語がかなり日常的に使用され,しかもその数は年々増加する傾向にある。これはそれを母語とする学習者にも,外国人の学習者にも不便であるから,単語の使用度数などを調査し,ときにはこれに主観的な増減を加えて,一定限度の語彙を選び出すことがある。このようなものを〈基本語彙〉と呼び(ときには〈制限語彙〉ともいう),日本の英語教育でも中学・高校の〈必修語彙〉が定められている。英語ではアメリカの教育心理学者E.L.ソーンダイクによる調査(1931)と,やはりアメリカのウェストMichael Westによるもの(1953),またH.パーマーによるいわゆる〈パーマーの3000語〉が有名であり,なおほかにもいろいろな選定語彙表がある。さらに,計画的・系統的に制限された語彙だけで,すべてのことを一応表現できるよう考案されたものをふつう〈基礎語彙〉といい,C.K.オグデンのベーシック・イングリッシュ(850語)が有名である。これにならい日本では英文学者の土居光知が1933年,《基礎日本語》(1000語,のち100語追加)を発表した。
これとは別に,アメリカの言語学者スワデシュMorris Swadesh(1909-67)は1950年に〈基礎語彙〉の名を用いて,彼のいわゆる〈言語年代学glottochronology〉における核心的語彙,すなわち,社会的激変によってもあまり変動しない部分をさし,これは言語の差異にもかかわらず変化の速度が一定であるとの仮説を立てた。これは日本語などについても応用・検証されたが,なにを基礎語彙とみなすか,また比較言語学で同系性が証明されない言語間に,この方法を応用してよいかどうか疑問がもたれている。
執筆者:三宅 鴻
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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