日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドラビダ語族」の意味・わかりやすい解説
ドラビダ語族
どらびだごぞく
主としてインド南部(タミル・ナド州、ケララ州、カルナータカ州、アンドラ・プラデシュ州)に住む人々によって使用され、インド・アーリア諸語と相互に影響しつつ発達してきた、古くて豊かな文化伝統をもつ語族である。黒褐色の肌、痩身(そうしん)、中高鼻、長頭という肉体的特徴をもつドラビダ人の先祖は、地中海沿岸から移住して紀元前3500年ごろインド亜大陸に入ってきたと考えられているが、その約2000年後さらに南ウラル地方から集団移住してきたアーリア人の勢力によって、インド南部に追いやられてしまったものと考えられる。この歴史的事実を裏書きするかのように、パキスタンのバルーチスターン地方やシンド地方に住む一部の住民は、いまなおドラビダ語族に属するブラーフイー語を話している。また、モヘンジョ・ダーロやハラッパーの遺跡から発掘された碑文に関する最近の研究により、前3250年から約500年間にわたりインド亜大陸の北西部に栄えた都市文化は、ドラビダ系のものであったろうと考えられている。
ドラビダ語族の諸言語を話す人々のなかには、スリランカをはじめマレーシア、インドネシア、ベトナム、南アフリカ共和国などの諸外国に移住した者もおり、これらの人々を含めると、ドラビダ語族の総人口は1億3000万人強に達するものと推定される。また、この語族は、大まかに次の三つの下位グループに分けることが可能である。(1)北方グループ(ブラーフイー語、マルト語、クルク語)、(2)中央グループ(ゴーンディー諸語、クイ語、クウィー語、ガドバー諸語、パルジ語、ナイキ語、コーラーミー語、サバラ語、テルグ語)、(3)南方グループ(バダガ語、カンナダ語、コダグ語、コータ語、トダ語、マラヤーラム語、タミル語、イルラ語)。なお、トゥル語がどのグループに属するかは、まだ確定していない。以上の諸言語のうち大きな使用人口をもつものに、タミル語、マラヤーラム語、カンナダ語、テルグ語の四言語があり、それぞれタミル・ナド州、ケララ州、カルナータカ州、アンドラ・プラデシュ州の公用語となっていて、互いに異なる文字によって書き表される。ドラビダ語族のすべての言語は、歯音・歯茎音・そり舌音の三音韻系列をもち、名詞は格と数を、代名詞は男・女・中の三性を示し、動詞は主語の人称と数に応じて変化する。
この語族のもつ膠着(こうちゃく)語的特徴から、同じ類型的特徴を有する他の諸言語、たとえばコーカサス諸語、朝鮮語、日本語、シュメール語、ウラル語族などとの比較を通じて、親族関係の有無が研究されてきているが、まだ言語学的に証明されるまでには至っていない。
[奈良 毅]