改訂新版 世界大百科事典 「アルノーダニエル」の意味・わかりやすい解説
アルノー・ダニエル
Arnaut Daniel
12世紀末(1180-1200ころ)に活躍したトルバドゥール。生没年不詳。13世紀の〈伝記vida〉によれば,ペリグー地方リベラックの出身。きわめて複雑な技法を駆使し,しばしば難解な〈芸術体trobar ric〉を代表する。現存作品は18編,そのうち2編は楽譜つき。きわどい内容の1編を除けば,いずれも恋愛詩,中でも〈われはアルノー,風をとらえ/牛を使って兎狩りをし/上げ潮に逆らって泳ぐ者なり〉で終わる詩が有名。同時代人の評価が高いばかりでなく,ペトラルカは〈愛を歌う大家〉,ダンテは〈母国語の最上の彫物師〉と賞賛している。言葉の響き,リズム,脚韻の効果,旋律との組合せに,つまりは詩の形式美の追求に異常な努力を傾注したためである。とりわけ,各詩行が珍しい響きの脚韻語で終わり,後続詩節の中で複雑厳密な置換のなされる〈六行詩sestina〉と呼ばれるジャンルを創出し,イタリアの詩人に大きな影響をあたえたことは特筆に値する。
執筆者:新倉 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報