アメリカ合衆国とカナダからなる北アメリカ大陸の文化的地域概念で、中央・南アメリカ大陸のラテンアメリカと対比して用いられてきた。しかしこの概念は、歴史とともに実態から遊離しつつあるのが現状である。
確かに両国は南北に走る山脈や大平原などで連続し、世界最長の国境線も無防備で、河川や五大湖など共有部分が多い。また、今日の合衆国の起源は、アングロ・サクソン人(5、6世紀の民族移動期にイギリスへ移住したゲルマンの一派)が17、18世紀に植民してつくった植民地である。カナダはフランス人の植民地として出発したが、フレンチ・アンド・インディアン戦争(1754~1763)によってイギリス領となり、合衆国の独立に際し、国王派植民地人が多数亡命し、後に多くのイギリス系移民が定住した。この大陸では英語が公用語となり、立憲主義、議会制民主主義、個人主義、プロテスタンティズムなど、いわゆるWASP(ワスプ)(White Anglo-Saxon Protestant白人、アングロ・サクソン、プロテスタント)文化が卓越し、支配的となった。
しかしこの大陸は、現実には、当初から多人種・多文化的大陸として出発していた。数万年前にアジアから移住した先住民(アメリカ・インディアン)の文化が、15世紀末以後に西欧人と遭遇したのである。移住者もアングロ・サクソン系ばかりでなく、オランダ人もスウェーデン人も、ドイツ人も、またユダヤ人もいた。アフリカ大陸の黒人を奴隷として大量導入したことや、1820年から1977年の間に約4800万人もの白人移民が大西洋を越えて流入したことが、この傾向を激化させた。なかでも大西洋移民は、ほぼ1880年代を境にして、それ以前の北欧や西欧からの「旧移民」と、以後の南欧、東欧からの「新移民」とに分けられる。同時に太平洋岸から、中国と日本などのアジア系移民の流入も続いた。
合衆国の大陸開発そのものも、先住民の駆逐とメキシコ領の征服、併合の歴史であった(エスキモーおよびイヌイットやアリュート人などの先住民にも注目すべきである)。
合衆国の人口2億8142万人(2000年センサス)のうち、白人75.1%、アフリカ系アメリカ人12.3%、ヒスパニック(人種分類ではなく、出身地による分類)12.5%、アジア系3.7%で、21世紀なかばには、白人人口が50%を割るものと予測されている。こうした趨勢(すうせい)は、今日、アングロ・サクソン文化と並んで、それぞれが所属するマイノリティ(少数者)の固有の文化を尊重する多元的文化主義を促し、それに伴う対立・緊張が、アメリカ国民とは何かを絶えず問いかけている。また、カナダにおいても、人口の約27%を占めるフランス系住民が集中するケベック州の分離独立問題が国民投票にかけられ(1980、1995年)、僅少(きんしょう)差で否決されるなど、連邦制維持に苦心している。
合衆国とカナダにメキシコを加えた、北米自由貿易協定(NAFTA(ナフタ))は、ヨーロッパ連合(EU)や東南アジア諸国連合(ASEAN(アセアン))などと並ぶ地域経済圏の樹立を目ざしたが、トランプ政権下の2020年に保護貿易色の強い米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が発効したため、NAFTAは失効した。
[池本幸三]
南・北アメリカ大陸のうち,アメリカ合衆国,カナダ,およびグリーンランドを含む地域。世界の総陸地面積の約6分の1を占める。いわゆる〈新大陸〉のうち,スペインとポルトガルの支配を受け今日もこうしたイベリア半島起源の文化的伝統を強く持つ,メキシコ以南の〈ラテン・アメリカ〉に対して用いられる文化圏的呼称。先住民インディアンの地にヨーロッパ人が入植したが,スペインやフランスの影響を受けながらも,開発の当初からアングロ・サクソン人とその文化が支配的な役割を果たし,デンマーク領であるグリーンランドやフランス語を日常語とするカナダのケベックなどを除いて,その大部分が英語圏に属する。北アメリカと呼ばれることもしばしばあるが,これは広義には,パナマ地峡以北を指す自然地域区分である。
執筆者:矢ヶ崎 典隆
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