グリーンランド(読み)ぐりーんらんど(英語表記)Greenland

翻訳|Greenland

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グリーンランド」の意味・わかりやすい解説

グリーンランド
ぐりーんらんど
Greenland

北アメリカ大陸の北東にある世界最大の島。面積216万6086平方キロメートル、人口5万6542(2002)。デンマーク領であるが、同国のフェロー諸島と同じく、1979年に自治権を得た。行政上、北、西、東グリーンランドに分かれ、中心地はゴートホープ(ヌークNuuk)。最北端のモリス・ジェサップ岬(北緯83度39分)から南端のフェアウェル岬まで2670キロメートル、大部分が北極圏内にある。北は北極海、東はグリーンランド海、デンマーク海峡、北大西洋に面する。西はデービス海峡バフィン湾、ロブソン海峡(最狭部26キロメートル)で、カナダ北極海諸島に対する。

[楠 宏]

自然

全島の約80%にあたる180万平方キロメートルは、氷床や氷河で占められる。氷床は茶碗(ちゃわん)形の島の中心部を満たし、平均氷厚約1500メートル、最大4000メートルに達する。氷床の最高点は3200メートルで、海岸に向かって高度が下がり、沿岸部は露岩地帯が多く、フィヨルド(峡湾)や多数の島がある。東部の氷床上には露岩が突出し(ヌナタク)、最高峰はギュンビョルン山Mount Gunnbjørn(3700メートル)。グリーンランドは、地質構造上、カナダ楯状地(たてじょうち)(ローレンシア台地)に属し、先カンブリア時代の片麻(へんま)岩や花崗(かこう)岩からなる。しかし、北部のペアリーランドは古生代のカレドニア造山帯に属し、周囲の露岩地帯には、白亜紀の変動(ディスコ島の石炭)や、古第三紀(約5000万年前)の火山活動の跡がみられる。東岸のリバプール・ランドや西岸のユリアネホープなどには温泉や地熱地帯がある。北西部のメルビル湾付近に鉄隕石(いんせき)の落下地点が散在し、1897年にアメリカ人ペアリーの北極探検隊が、最大31トンのもの(アニギト隕石)をニューヨークへ運んだ。

 グリーンランドの気候は寒冷で、わずかに南西岸がガルフストリーム(メキシコ湾流)の影響下にある。氷床内部の年平均気温は、零下30℃に達する。最北部のノルド測候所の年平均気温は零下17.4℃、年降水量(おもに降雪による)は350ミリメートル。ゴートホープは年平均気温零下0.7℃(最寒月零下7.3℃、最暖月6.7℃)、年降水量800ミリメートル。南端(北緯約60度)では1800ミリメートルに達するが、夏でも降雪をみる。20世紀の初めから気候が温暖化し、これに伴ってアザラシが北へ移動し、タラの資源量が増えた。しかし、1960年代の終わりから海水温度が下がり、タラ漁が激減した。

 植物相は、北部ではコケや地衣類などであるが、南部ではカバ、ヤナギなどの低木もあり、総数400種に及ぶ。南端部ではジャガイモや干し草(ヒツジ飼料)がつくられ、南西岸ではカブ、キャベツ、レタスが栽培されている。海には動物が豊富で、グリーンランダー(先住民)の食糧源となっている。魚類はサケ、マス、タラ、ヒラメ、オヒョウ、エビなど、寒流系のものがとれる。アザラシ、クジラもいるが、クジラは激減した。陸にはホッキョクグマジャコウウシトナカイ(一部は飼育)、ホッキョクギツネ、ホッキョクウサギ、レミングなどがいる。鳥類も多く、なかには先住民の食糧となるものもある。夏には蚊(か)が多く発生する。

[楠 宏]

歴史

北東部に、カナダ極北部から移動してきたイヌイットの4000年以前の遺跡がある。10世紀末に、ノルマン人エリックErik the Red一行がユリアネホープへ移住し、植民地の人口は一時3000人に及んだが、16、17世紀ごろには消滅した。その後ヨーロッパの捕鯨業者がイヌイットと接触し、1721年にノルウェーのキリスト教伝道が始まった。デンマークが交易の主導権をとり、グリーンランドの植民地支配が強まり、ノルウェーとの主権争いが続いたが、1933年に解決した。第二次世界大戦によるドイツのグリーンランド侵入に対し、アメリカが反撃にあたり、ヨーロッパへの物資輸送のための中継地としてグリーンランドの価値が高まった。大戦後は、アメリカの対ソ戦略上、グリーンランドに空軍基地やレーダー基地が置かれるようになった。

[楠 宏]

産業

主産業は漁業で、タラ、エビ、オヒョウなどがとれる(1997年総漁獲高12万0596トン)。売買はKGHと略称される王立グリーンランド交易公社(1990年に民営化)が中心となっているが、私企業によるものが増える傾向にある。生産物には、アザラシやキツネの皮のほか、鉛や亜鉛の鉱産物もある。ヒツジ約2万2000頭(2000)やトナカイ(約3800頭)の飼育も行われている。水産物や鉱産物などの総輸出額は約17億0200万クローネ、総輸入額は約27億4000万クローネ(1998)と輸入超過である。おもにデンマーク本国との取引が多い。出入国者は、近年、航空機利用者が増え(年間約7万人)、船の利用者は4.7万人である。スカンジナビア航空が、コペンハーゲンとカンゲルルススアーク間に航空路を開いている。北アメリカからの直接乗り入れは許されていない。鉱業は衰退しているが、石油、ウラン、クロム、鉄などの探査が続けられており、近年は国際資本も導入され、国際的に注目されている。

[楠 宏]

住民

住民のうち、グリーンランダーとよばれる先住民およびデンマーク人などとの混血者が4.1万人、白人移住者は9000人となっているが、このほかに測候所などの勤務者1900人がいる。大部分は西部地区の町村に住み、点在する集落には約1万人が住んでいるにすぎない。第二次世界大戦後、社会、経済面で近代化が進み、グリーンランド全体で電話回線数2万4600(1998)、乗用車保有台数(トラック等含む)3874台(1998)を数える。幼・小学校の教員数は1047人(1998)、医師は84人(1998)である。グリーンランダーと白人移住者との間には収入の差があり(既婚者で年収8000クローネと1万9000クローネ)、社会問題となりつつある。1979年に制定された自治法(ホーム・ルール)により、グリーンランダーの発言力は強まりつつある。しかし、彼らの経済基盤が弱く、多くの問題が残されている。

[楠 宏]

 2008年の国民投票で自治拡大が支持され、2009年に自治法が改正、外交と安全保障を除いた権限を自治政府がもっている。

[編集部]

日本との関係

関係は密接ではないが、日本製商品はグリーンランドにも進出している。探検、登山、観光で訪れる日本人も増えつつあり、1978年には植村直己(うえむらなおみ)が南北縦断の単独犬ぞり旅行を行った。1956年から数年、中谷宇吉郎(なかやうきちろう)が氷床の雪の研究を行った。

[楠 宏]

世界遺産の登録

グリーンランド西岸の町イルリサットにある氷河が2004年、ユネスコ(国連教育科学文化機関)により「イルリサット・アイスフィヨルド」として世界遺産の自然遺産に登録された(世界自然遺産)。また、2017、2018年に、イヌイットの遺跡が世界遺産の文化遺産に登録されている(世界文化遺産)。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グリーンランド」の意味・わかりやすい解説

グリーンランド
Greenland

大西洋に浮かぶ世界最大の島。デンマーク語でグレンラン Grønland(「緑の島」の意),エスキモー語でカラーリトヌナート Kalaallit Nunaat。デンマーク領だが自治政府が内政のほとんどに権限をもつ。首都はヌーク。全島の 3分の2が北極圏に含まれ,大半が氷河万年雪に覆われている。沿岸部ではツンドラが広がり,氷河侵食によるフィヨルドが発達し,小島が散在する。内陸部に向かって標高を増し,最高峰は東部のグンビョルン山(3700m)。気候はツンドラ気候および氷雪気候で,東海岸は西海岸より寒冷で降水量が多い。982年ノルウェー出身のエーリックが上陸し,「緑の島」と呼んだ。その後入植が行なわれたが長くは続かず,15世紀には入植者もいなくなった。16世紀以後,北西航路の開拓者たちによって再発見され,1721年には宣教師のハンス・エーゲデがゴットホープ(今日のヌーク)に植民地を建設した。19世紀後半以後,フリチョフ・ナンセン,クヌート・ラスムッセン,ヨハン・ペーター・コッホらによる探検を通じて島の全容が明らかになった。1978年には日本の植村直己が約 2600kmを犬ぞりで単独縦断。タラやニシンなどの水産業が主産業。氷晶石,鉛,亜鉛などの鉱物資源にも富む。第2次世界大戦中はアメリカ合衆国が空軍基地や観測所を建設。近年,学術研究や軍事上重要な地となっている。住民の大半が先住民のイヌイット(→エスキモー)。1979年本国と同じ政治的地位が与えられ,租税,教育,社会保障などの内政分野で自治権を獲得。2009年には天然資源開発等の分野でも中央政府から権利を委譲された。2004年西岸のイルリサット・フィヨルドが国際連合教育科学文化機関 UNESCOの世界遺産の自然遺産に登録。2017年には南岸の氷床周縁部でのノール人やイヌイットによる 10世紀以降の農業の痕跡が,2018年には西岸から奥地に点在する 4200年前以降の先史文化(→ドーセット文化チューレ文化)の時代の狩猟場跡が,それぞれ世界遺産の文化遺産に登録された。面積 216万6086km2。人口 5万5900(2017推計)。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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