改訂新版 世界大百科事典 「アーヤーン」の意味・わかりやすい解説
アーヤーン
a`yān
アラビア語・ペルシア語・トルコ語文献などで,特定の時代,地域,王朝,部族,都市,農村などの〈有力者〉〈高官〉〈名士〉などを意味する語として使われる。語源はアラビア語で〈目〉や〈泉〉を意味するアイン`aynの複数形。ムスリム社会の伝統的諸共同体のリーダーとして,権力者と民衆との仲介役を果たした。この語がとくに重要性を獲得するのは18世紀以後のオスマン帝国である。この時代に帝国の中央集権体制は弱まり,各地に在地の有力者層が勃興して,中央政府の派遣する地方官の影響力を排除した。地域によって彼らに対する呼称は異なり,たとえば,エジプトではマムルーク,アルジェリア,チュニジア,リビア方面ではダユdayı,シリア,アナトリア,バルカンではアーヤーンと呼ばれた。彼らの経済的基盤は,いずれも土地所有と徴税請負(イルティザーム)権とにある。彼らの勃興は,中央政府に集権体制回復のための改革政治の実施を促したが,結果的には帝国体制の解体と民族諸国家の成立とを準備するものとなった。
執筆者:永田 雄三
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