改訂新版 世界大百科事典 「イオン打込み」の意味・わかりやすい解説
イオン打込み (イオンうちこみ)
ion implantation
イオン注入ともいう。基体材料とは異なる元素のイオンを,数keV~数MeVのエネルギーに加速して基体表面に打ち込み,表面の改質を行う方法。イオンに加えるエネルギー(加速電圧)および電流を変えることによって,表面からイオンが入る距離(飛程という)および濃度を容易に制御することができる。また表面に適当なパターンのマスクをかけることによって,平面分布をもった改質層をつくることができる。とくに半導体材料ではドナーもしくはアクセプターとして働く不純物元素イオンの低濃度の打込み(1011~1014イオン/cm2)によって,表面の電子物性を大幅に変えることができるので半導体素子や集積回路の製造技術として利用される。異種元素イオンが基体結晶中に打ち込まれると,結晶内部に格子欠陥を生ずる。高濃度(1015~1016イオン/cm2)打込みの場合には表面が非晶質化することも起こる。打込み後に熱処理を行うと,再結晶化現象によって打ち込まれた不純物を結晶格子内にとりこんだ結晶が生成する。イオン打込み装置は,高密度のプラズマ状態をつくるイオン源部分,プラズマから効率よくイオンを引き出すイオン引出し加速系,目的イオンを選択的に透過させる質量分離器,および打ち込まれる基体を設置する打込み室などから成る。質量分離器のあとにさらに加速系を有する場合もある。
執筆者:増子 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報