磁性材料
じせいざいりょう
方位磁針、磁石ピン、電磁石、モーター、発電機、スピーカー、トランス、あるいは磁気テープ、磁気ディスク、カードなどの製品において、磁気的な機能を受け持っている材料をいう。磁性材料には、強い磁気を示す強磁性やフェリ磁性(以下、磁性体という)が用いられ、使用目的によって磁気特性が異なる。
磁性体には電子の運動による磁界が存在している。それを自発磁化という。自発磁化は「磁区」という領域によって区分され、磁界を打ち消すように配列しているので、全体としては磁界がないようにみえる。しかし外部から磁界(H)を加えると、方位磁針が地磁気によって南北をさすように、自発磁化が磁界の方向にそろってくる。この現象を「磁化」という。磁界と磁化との関係を示す曲線が磁化曲線や磁気ヒステリシス曲線である。
磁性材料は、それらの曲線で示される磁気特性の相異によって分類される。軟質磁性材料は保磁力が小さく磁化されやすい材料で、電磁石、トランス、モーター、磁気ヘッドなどの磁心として用いられる。それらの多くは交流磁界中で用いられるので、周波数に応じて磁化が繰り返される。そのとき磁気ヒステリシス曲線のループ面積に相当する磁気エネルギーが消費される。とくに金属磁性材料では電気抵抗が低いので、渦電流によるエネルギーの損失が伴う。磁気エネルギーの損失を低減するために保磁力を小さく、ループ面積を小さくしてある。渦電流の損失の低減には、薄板にして表面を電気的に絶縁し重ねて用いるなどくふうされている。さらに高い周波数で用いる場合には、電気抵抗が金属よりも高い酸化物系の軟質磁性材料を用いる。これに対して、硬質磁性材料は、一方向にそろえた自発磁化が減磁しないように高い保磁力が必要である。永久磁石がその典型であって、合金系と化合物系に大別される。合金系では鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性粒子が非磁性体に分散している。化合物系では結晶磁気異方性の大きな磁性化合物を用いる。磁気記録用のテープ、ディスクの表面には保磁力を有する磁性材料が記録媒体として付着させてある。それに音や画像が微小磁界として記録される。記録密度の上昇に伴って保磁力のより高い磁性体が用いられるようになった。半硬質磁性材料は硬質磁性材料に比較して保磁力が小さく、着磁、減磁が硬質磁性材料よりも容易であって、自己保持型の電磁開閉器やヒステリシスモーターの回転子に用いられる。
それら以外の磁性材料としては、磁化によって電気伝導度が変化することを利用した磁気センサー、キュリー温度で自発磁化が消失し外部磁界に反応しなくなることを利用した温度センサー、応力によって磁化率が変化することを利用した磁気ひずみセンサー、磁気ひずみの大きい磁性体を交流磁界で磁化するとき、その周波数に対応して振動することを利用した磁気振動子、キュリー温度近傍で体積の温度変化が小さくなることを利用した不変合金(インバー合金)、磁性体の微粒子を液体中に分散した磁性流体、さらには光、電磁波と磁界との関係を利用した種々の素子がある。
[本間基文]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
磁性材料
じせいざいりょう
magnetic material
強磁性材料はその磁気ヒステリシス (履歴) 曲線の形状と大きさが問題で,永久磁石ではその第4象限の減磁曲線が重要であるが,透磁率が重要条件になることもあるし,また整磁作用,磁歪 (じわい) を示す材料も実用上大切な磁性材料である。以上の考え方で磁性材料を分類する。 (1) 電磁石磁心 残留磁束密度 B ,透磁率 μ が大で,保磁力 H ,履歴損失 (鉄損) W の小さいもの。電磁石だけでなく動力用継電器,回転子コアも同じ。純鉄が多く使われる。 (2) 低周波用磁心 50Hz ~ 100kHz の交番磁場用。条件は (1) と同じであるがこの場合は渦電流損失を考慮するから,電気抵抗の大きい材質を用い,薄板,粉末を絶縁材でへだてて成形する。強電用変圧器ではケイ素鋼板,特に異方性のそれが高性能である。弱磁場用には初透磁率の高いセンダスト・パーマロイ系合金。 (3) 高周波用鉄心 100kHz 以上では渦電流損失の特に小さい材料として,カーボニル鉄粉,センダスト,モリブデンパーマロイ,亜鉛系酸化物磁石。すべて圧粉磁心とする。 (4) 永久磁石 保磁力 H と残留磁化 M の特に大きいもの。世界で最も多く使われるのはMK鋼 (国により異称が多い) とバリウムフェライト。新しいものとしてサマリウム・コバルト磁石,展延性のある鉄・クロム・コバルト磁石,マンガン・アルミニウム・炭素磁石などがある。 (5) 角型ヒステリシス合金 直流磁場で履歴曲線が縦軸に沿った長方形 (交流磁場では幅が広がる) ,したがって透磁率,残留磁化ともに大きい合金。磁気記憶装置,磁気増幅器などに用いる。パーマロイBの板を強く冷間圧延後焼鈍し,再結晶で異方性にしたものが多い。 (6) 恒透磁率合金 比較的弱磁場で透磁率が一定の合金。海底電話ケーブルの装荷コイルなどに用いる。パーミンバー系統の Fe-Ni-Co 合金を主とする。 (7) 整磁材料 強磁性材料は温度が上がると磁気飽和値が下がり,これを使った積算電力計などの機器に狂いが出る。その補償には常温よりやや上で透磁率が上昇する材料 (ホプキンソン効果) を磁極間にはさめばよい。これが整磁合金で,キュリー点 100℃ぐらいのものを選ぶ。モネルメタル,MSO 鉄合金 (Ni 35%,Cr 8 %) などを用いる。 (8) 磁歪合金 強磁性体は磁場内で磁歪により寸法が変るので,交番磁場ではその周波数に応じて振動する。これが磁歪振動子で,超音波発振器に用いる。純ニッケル,Ni-Cr 4%の MM合金,Fe-Al 10~14%のアルフェル (AF) などがある。最近の電子機器,通信機器の進歩により,磁性材料に対する要求も非常に多様化し,それぞれに研究開発が進められている。録音磁気テープや磁気探傷リボンには赤色 γ-Fe2O3 粉末,黒色 Fe2O4 粉末が多いが,他の強磁性フェライト粉末も用いられる。ヘッドはパーマロイ系合金が主である。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
磁性材料【じせいざいりょう】
磁気的に有用な性質をもつ金属材料の総称。録音用の磁気テープや永久磁石が身近な例。主要なものは高透磁率材料(ケイ素鋼,パーマロイなど),永久磁石材料(MK鋼,KS鋼,フェライト),磁気記録材料(γ型酸化鉄(III),二酸化クロム,コバルト添加の酸化鉄粉末など),その他半硬質磁性合金,光磁気記録用の材料などの新素材がある。→磁性体
→関連項目純鉄
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じせいざいりょう【磁性材料 magnetic material】
磁気的な性質を利用する金属材料の総称。録音用の磁気テープや磁気ディスク,永久磁石が身近な例である。電気を流して熱や光を発生させるヒーターや電球は,電気抵抗体に電気を流すと熱に変わるという原理の応用であって,磁性とは関係がないが,電気を流すと力の出るモーター,力を加えて回転すると電気が発生する発電機,電圧を変える変圧器,テープへの録音などは電気と磁気の作用の応用であって,このような機器には必ず磁性材料が使用されている。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報