金属、半導体、イオン結晶などの結晶中における原子配列には広い範囲にわたる規則性がある。たとえば、碁盤の格子点にきちんと碁石を並べたような構造が結晶中の原子配列を表しているものと考えてよい。しかし、実在の結晶中の原子配列は完全無欠ではなく、各種の不完全性・乱れを含んでいる。これを格子欠陥とよぶ。「欠陥」というと、いかにも不良品という響きがある。確かにそうには違いないが、まさにその格子欠陥があるがために、結晶がいろいろ興味ある性質を示し、実用的にも有用となっている側面もある。格子欠陥はその空間的広がりに応じて、点欠陥、線欠陥、面欠陥に分類される。
[小岩昌宏]
原子空孔( のa。これを空(くう)格子点という場合もある)と格子間原子( のb)が基本的な点欠陥である。原子空孔の数は温度の上昇につれて増加し、融点直下では1万個の格子点に対し1個程度の割合である。結晶中での原子の移動・拡散は、空孔に隣接する原子が空孔の位置に移ることによりおこる。結晶を高エネルギーの中性子、イオン、電子で照射すると、正規の位置にある原子がはじき飛ばされて、原子空孔と格子間原子がつくられる。
に各種の点欠陥を模式的に示した。正規の格子点にあるべき原子が抜けている結晶中にある異種の原子(不純物)も点欠陥の一種である。母体結晶の原子とあまり大きさが変わらない原子は置換型原子(原子半径が小さい原子は侵入型原子( のd)となる。これらの要素的な欠陥が結合した複合欠陥として、複空孔( のe)、不純物原子と原子空孔の複合体( のf)などがある。
のc)、水素・炭素・窒素・酸素など[小岩昌宏]
結晶に引張り力を加えたとき、特定の面に沿って原子がすべりあって変形がおこる。この変形は、すべり面全面にわたって一気におこるのではなく、 に示すように、すべり面の一部がすべり、そのすべった部分がしだいに広がっていって、ついにすべり面全面を覆う、という順序でおこる。 (b)のすべった部分とまだすべっていない部分の境界では原子の配列が崩れているが、この部分を転位とよんでいる。この転位は、 (a)に示すように余分に入った1枚の原子面の端の線になっており、この種の転位を刃(は)状転位とよんでいる。刃状転位の特徴は、転位線がすべり方向に垂直なことである。 (b)はらせん転位とよばれる転位のもう一つの主要な型を示している。この場合はすべり方向が転位線に平行である。この図で、転位の周りを原子面に沿って回ると、1回転ごとに次の原子面に移る。すなわち、原子面がらせん状に結晶の中に広がっているので、らせん転位とよばれる。せっけん水の中に細いガラス管から空気を吹き出して、直径のそろった泡をつくり液面に並べると二次元的な泡の結晶ができるが、この中には (a)に示すようにしばしば刃状転位がみられる。転位は結晶の変形、成長に重要な役割を果たす格子欠陥であり、電子顕微鏡観察などによりその挙動が詳しく調べられている。
[小岩昌宏]
実際に用いられる金属材料の大部分は、多数の小さな結晶粒からなる多結晶体で、二つの結晶粒が相接する境界(結晶粒界)は原子配列が乱れており、面欠陥の一種である。結晶は、特定の配列をした原子面を一定に規則に従って積み重ねたものとみることもできるが、積み重ねの誤りは積層欠陥とよばれる面欠陥である。また結晶の自由表面にある原子は、周囲の環境が結晶内部にある原子と異なっており、表面も一種の面欠陥である。なお、面欠陥には、不純物原子が集まりやすいなど特異な性質がある。
[小岩昌宏]
理想的な結晶においては,原子は規則正しい格子をつくって並んでおり,このような結晶は完全結晶と呼ばれる。しかし実際に得られる結晶では,この規則性は少し乱れており,この乱れを格子欠陥と呼ぶ。格子欠陥には点状,線状,面状のものがある。点状の欠陥としては,本来の原子の種類と異なる不純物原子の存在,正規の格子点から原子が抜けてしまっている空格子点,正規の格子点でない位置に原子が入り込んだ格子間原子があり,線状の欠陥としては塑性変形に関与する転位がある。また,面状の格子欠陥としては,多結晶の粒界,結晶面の積重なり方の欠陥などがある。
結晶によっては,ごくわずかの格子欠陥が存在することにより,性質が大きく変化する。宝石のきれいな色も,不純物原子によるものである。例えば,ルビーの場合,母体の結晶は酸化アルミニウムで無色透明であるが,0.01%程度のクロム原子を含むことにより,可視光を吸収する電子状態がつくられ,赤色に着色する(着色中心)。またゲルマニウムやケイ素(シリコン)などの半導体の電気伝導度も,ガリウムやリンのようなⅢ族,Ⅴ族の不純物原子を少量加えることにより,数桁にわたって変化する。トランジスターのような半導体素子では,意図的に格子欠陥(不純物原子)を導入することにより,電気を運ぶ粒子の種類(電子,正孔)と電気伝導度を制御する。このように,格子欠陥を制御して導入することにより,物質の性質を大きく変えうることは,応用面からは非常に重要なことである。格子欠陥が役だっている他の例としては,写真乳剤に使われるハロゲン化銀がある。ここでは,光をあてることによる銀の析出という光化学反応を利用するが,これは,ハロゲン化銀の中で,銀の格子間原子が動きやすいことによるものである。線状欠陥である転位は,物質の機械的性質を支配している。これは転位の運動が,原子のつながり方を変えるためで,物のかたさ,塑性変形のしやすさは,転位の数,動きやすさによって決まっている。
→転位
執筆者:二宮 敏行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
結晶は,構成要素である原子が,規則正しく結晶格子をなして配列しているものと考えられている.しかし,それは理想的な場合で,実際には,その規則性は多少ともところどころで破れて乱れが存在する.これを格子欠陥という.原子のあるものが,正規の格子点から抜けてそこに格子空孔を残し,みずから格子間の中間位置に入り込んでそこにも欠陥をつくる場合(フレンケル欠陥),あるいは結晶表面に抜けてしまう場合(ショットキー型欠陥)などが重要な格子欠陥の型である.不純物原子が結晶のある原子と置換する場合,あるいは格子点の中間の位置に存在する場合などがある.格子欠陥はイオン結晶の着色現象,半導体の電気伝導などの性質を支配する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新