日本大百科全書(ニッポニカ) 「イゴロット」の意味・わかりやすい解説
イゴロット
いごろっと
Igorot
フィリピンのルソン島北部、コルディエラ・セントラル山脈に居住する原マレー系の山地民の総称。「イゴロット」とは「山の人々」の意味で、キリスト教徒化した平地民によって用いられてきた。イゴロットはそのことばや慣習の違いによって、いくつかの民族言語集団に分けられている。代表的なものは、北からアパヤオ、カリンガ、ボントック、イフガオ、カンカナイ、イバロイなどであり、さらに細かく区分され名称を与えられている地域もある。
生業形態は大きく二つに分けられる。北部の比較的低域の降雨林地帯では陸稲栽培を中心とした焼畑による移動農耕が行われ、中部、南部の高地では灌漑(かんがい)技術を用いた棚田式の水田耕作が営まれている。各民族とも全体的な政治組織をもたず、集落がまとまりのある地縁集団として機能している。親族が双系的であることも共通の特徴である。宗教は祖霊や精霊を信仰し、超自然的制裁を避けるために、事あるごとに儀礼を行い、ニワトリやブタを供犠している。また、過去においては、集落間の戦争や首狩りが盛んに行われていた。首狩りは、人々の怒りや悲しみを和らげるとともに狩った者には霊的能力が付加され、その家族や集落が繁栄に導かれるという信仰に基づいていた。キリスト教宣教師の活動、学校教育の普及、行政機構の浸透により、現在では平地民文化の影響を大きく受けつつある。
[結城史隆]