ことわざを知る辞典 の解説
いろはかるたの隠れた役割
■ゲームとしてはごくシンプルで、一人が読み札を読み、他の参加者数人が、文句の頭文字(ひらがな一文字)の入った絵札をとっていくものです。誰でもすぐ遊べて、一回一五~二〇分程度で、何度も繰り返し遊ぶことができます。
■ひらがなをうろ覚えの子も参加でき、「あたまかくして尻かくさず」なら、「あ」がわからなくても、お尻が見える絵をたよりにとることが可能です。こうして遊んでいるうちに、自然にかなをおぼえ、自信をつけていきます。このかるたは、江戸後期(一九世紀初期)に上方で生まれたもので、いろは四七文字をそろえたのは、この教育的効果を意識したものでしょう。やがて江戸でも、後に「犬棒かるた」と呼ばれるものが生まれ、明治後期には全国に普及しました。
■ここで、いろはかるたの隠れた特色に注目してみましょう。江戸いろはかるたの文句を、いろは順に並べると、
い 犬も歩けば棒に当たる
ろ 論より証拠
は 花より団子
三つだけでも見当がつくように、文句は基本的にことわざです。それもそのはず、いろはかるたは本来「いろはたとえかるた」で、「たとえ」はことわざの意です。
■その内容をみると、「ちりも積もれば山となる」や「油断大敵」のように教訓的なものもありますが、「律儀者の子だくさん」や「縁は異なもの」のようにとても子ども向きとはいえないものも少なくありません。
■ちなみに、芥川龍之介は晩年、世渡りの知恵はあるいは「いろは短歌」に尽きているのではあるまいか、と述べていました(「
■子どもたちは、よくわからなくても、繰り返し耳にするうちに文句を覚えてしまいます。やがて時が過ぎると、ほとんど忘れてしまいますが、何かの折に、ふとことわざが浮かび、なるほど、そういうことだったのか、と納得した経験があなたにもあるのではないでしょうか。いろはかるたの影響は、日本人の心の奥深くまで及んでいるといえるでしょう。
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