日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウェルナー錯体」の意味・わかりやすい解説
ウェルナー錯体
うぇるなーさくたい
Werner complex
スイスの化学者A・ウェルナーの配位理論によって説明することのできる錯体をいう。すなわち、中心金属イオンに非共有電子対をもつ分子あるいはイオン(単原子イオンでも多原子イオンでもよい)が配位してできた錯体をいう。このとき生成する錯体はイオンであっても分子であってもよい。たとえば、[Co(NH3)6]3+、[Fe(CN)6]4-、[Co(NO2)3(NH3)3]、[Cr(NH2CH2COO)3]、[Cr(H2O)6]3+、[Cr(edta)]-などがそうである。しかしこれらとは違って、サンドイッチ錯体や、オレフィン錯体、アリル錯体などは、配位結合にπ(パイ)電子系が関与しており、しかも逆供与によってπ結合を生成するなどしていて、ウェルナーの配位理論では説明できないので非ウェルナー錯体とよばれる。
[中原勝儼]
『渡部正利・矢野重信・碇屋隆雄著『錯体化学の基礎――ウェルナー錯体と有機金属錯体』(1989・講談社)』▽『F・A・コットン、G・ウィルキンソン、P・L・ガウス著、中原勝儼訳『基礎無機化学』(1998・培風館)』