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錯体化学 さくたいかがくcomplex chemistry

世界大百科事典 第2版の解説

さくたいかがく【錯体化学 complex chemistry】

錯体を研究の対象とする化学の一部門。従来,錯塩化学ということが多かった。配位化学と同意義に取り扱うこともある。有機化合物の多くがメタンやベンゼンなどの基本的な分子を各種の基で置換して誘導できるのに対し,無機化合物では,中心原子に各種配位子が配位して生ずる錯体を含むものが多いことから,この分野が無機化学の最も基礎的なものの一つであるといえる。 19世紀の終りころ,ドイツのA.G.ウェルナーがそれまで理解できなかった遷移金属塩のアンモニア化合物,水和物その他の構造について,彼の配位理論によって解決したのがこの分野の出発点である。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

錯体化学
さくたいかがく
complex chemistry

錯体を研究の対象とする化学の一部門。配位化合物の化学すなわち配位化学ともいう。古くは錯塩化学といっていた。19世紀の末から20世紀の初めにかけてスイスのA・ウェルナーが、無機化合物、とくに金属化合物の構造について正しい考え方、すなわち金属原子を中心として各種の配位子が配位するという考え方、配位理論をみいだし、この分野を確立して以来、急激な発展をみた。各種の立体配置を有する錯体を対象とするため、無機化学のうちでももっとも基礎的なものの一つとなっている。とくに構造化学的な要素が強く、X線結晶解析をはじめ各種の構造解析、あるいは分光学的手法を用い、錯体の立体構造が明らかにされつつある。また、中心金属と配位原子の結合を問題とするので、量子化学その他を含めた理論化学的色彩も濃く、それらの構造がどのように変化していくか、どの程度に安定かということを調べるために、各種の物理化学的手段がとられている。また安定な多座配位子によるキレート化合物、とくに天然物や生体内で各種反応による生成物中に重要なキレート化合物がみいだされていることから、生物化学、農芸化学、分析化学などとも密接な関係をもっている。最近では有機合成で重要な役割を果たす多くの金属触媒が有機金属錯体であることから、有機金属化合物が多くつくられるようになり、さらに芳香環錯体をはじめ各種のπ(パイ)電子が関与する錯体など膨大な分野が広がっているが、これらも基本的には金属錯体と考えられ、錯体化学の対象となっている。[中原勝儼]
『ヒューイ著、小玉剛二・中沢浩訳『ヒューイ無機化学』上下(1984~1985・東京化学同人) ▽F・A・コットン、G・ウィルキンソン著、中原勝儼訳『コットン・ウィルキンソン無機化学』上下・第4版(1987~1988・培風館) ▽渡部正利・矢野重信・碇屋隆雄著『錯体化学の基礎――ウェルナー錯体と有機金属錯体』(1989・講談社) ▽山崎一雄・吉川雄三・池田龍一・中村大雄著『錯体化学』改訂第2版(1993・裳華房) ▽岩本振武・荻野博・久司佳彦・山内脩編『大学院錯体化学』(2000・講談社) ▽基礎錯体工学研究会編『新版 錯体化学――基礎と最新の展開』(2002・講談社)』

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世界大百科事典内の錯体化学の言及

【化学】より

…A.ウェルナーは,遷移金属がつくるある種の化合物においては,金属原子は単純な原子価説では説明できない原子価をもつことを説明する〈配位説〉を提案した。配位説は20世紀に開花した錯体化学への道を開いた。E.フィッシャーは糖類の構造の解明に際して炭素正四面体説をよりどころにした。…

【錯体】より

…ヨルゲンセンS.M.Jørgensen(1885)はこれを改良したが異性現象を説明できなかった。1893年A.ウェルナーが立体構造を考えて初めて異性現象を説明し,錯体化学(錯塩化学あるいは配位化学ともいう)の基礎を築いた(〈配位説〉の項参照)。ウェルナーの研究室で1911‐12年に研究した柴田雄次が帰国後,錯体の吸収スペクトルを系統的に研究したのが日本における錯体化学の始まりである。…

※「錯体化学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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