西インド諸島、セント・ルシアの詩人、劇作家、演出家。両親の父がそれぞれイギリス人とオランダ人で、母はいずれもアフリカ人という混血。父は水彩画家。1950年に、西インド大学に留学のためジャマイカへ渡り、1953年に卒業。のち教師、ジャーナリストとして働き、1957年から2年間ニューヨークで演劇を研修した。1959年にトリニダードに移住し、トリニダード演劇ワークショップを設立して西インド諸島演劇の発展に尽くした。1976年に同ワークショップ支配人を辞任(1993年に復帰)し、1979年にアメリカ文芸アカデミーの名誉会員となった。1980年代以降は客員教授としてコロンビア大学、ボストン大学、ハーバード大学で教え、1992年に「歴史的な鋭く深い洞察に裏打ちされた複合文化の結実といえる、きらめくような一連の詩作」が評価されて、ノーベル文学賞を受賞した。初期の詩集『詩、二十五』(1948)、『緑の夜に』(1962)には、ジョン・ダン、アンドルー・マーベルら17世紀イギリス形而上(けいじじょう)詩人、シェークスピア、ディラン・トマスらの影響が色濃い。のち「奴隷の刻印」、貧困、人種問題などカリブ海域特有の風土と歴史を、根なし草的混血文化に由来する疎外感、孤独感を交えながら、トロピカル(熱帯ふう)なイメージで詩に歌い込み、同時に、この根なし草的な「無」の混沌(こんとん)状態と「白い痕跡(こんせき)」から脱皮し、独自の「新世界」の構築を詩のなかで目ざすようになる。そんな作品に、詩集『漂流者』(1965)、『入り江』(1969)、『もう一つの生』(1973)、『浜辺ぶどう』(1976)、『カイニット王国』(1979)、『幸福な旅人』(1982)、『真夏』(1984)、『オメロス(ホメロス)』(1990)、『祝儀(しゅうぎ)』(1997)がある。一方、劇作では詩劇『ヘンリ・クリストフ』(1950)、『ドーフィンの海』(1954)、『モンキー山での夢』(1970)、ドン・ファンの系譜を受け継ぐミュージカル劇『セビーリャの戯(ざ)れごと師』(1978)、『オメロス』を劇化した詩劇『オデュッセイア(オディセイ)』(1993)がある。
[土屋 哲]
『徳永暢三訳『デレック・ウォルコット詩集』(1994・小沢書店)』
アメリカの地質・古生物学者。ニューヨーク州生まれ。独学で地質学を学び、アメリカ地質調査所に勤務し、1907年からスミソニアン研究所の第4代事務局長に就任した。そのかたわらアメリカ科学アカデミー議長や科学振興会会長などの要職を兼任している。北アメリカの先カンブリア代およびカンブリア紀の地層と化石を研究し、1884~1885年に『北アメリカのカンブリア紀動物群』2巻を公表した。また、モンタナ州とグランド・キャニオンの先カンブリア界から化石を発見し、アルゴン階という先カンブリア代の地質系統を提唱して、北アメリカの先カンブリア界の研究の基礎を築いた。
[大森昌衛]
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