日本大百科全書(ニッポニカ) 「先カンブリア時代」の意味・わかりやすい解説
先カンブリア時代
せんかんぶりあじだい
Precambrian
地質時代において確実な化石が目だって産出するようになるのは、約5億4100万年前の古生代のカンブリア紀に入ってからであるが、それに先だつ地質時代を一括して先カンブリア時代とよんでいる。地球が形成された約46億年前から約5億4100万年前までの約40億年に及ぶ長大な地質時代に相当する。先カンブリア時代に形成された地層を先カンブリア界という。
この時代は、最初の生命が発生した時代という意味の始生代(または太古代)と、原始的な生物の時代という意味の原生代に区分される。始生代は、地球の形成より約25億年前までの時代にあたり、地球の基本的構造が形成される。これまでに確認された最古の岩石は、約38億から約37億年前のものである。先カンブリア時代の岩石は楯状地(たてじょうち)を形成し、北アメリカ大陸北東部、南アメリカ大陸アマゾン地域、シベリア、北ヨーロッパ、アフリカ大陸南東部、オーストラリア大陸西部、インド、中国華北より朝鮮半島などに広く分布している。先カンブリア時代の地層・岩石は、粘板岩、砂岩、礫(れき)岩、火山砕屑(さいせつ)岩類、またそれらを貫く深成岩類などであるが、何回もの変成作用を受け、一般に、結晶片岩類や片麻岩になっている場合が多い。ただし、後期の地層には、石灰岩、白雲岩、赤色岩層の発達もみられ、地層の保存もよく、化石もまれにみつかる。始生代に生物が存在していたことは、生物源とみなされる石墨や鉄鉱層の発達からも推察されるが、バクテリアや藍藻(らんそう)の化石と思われるものが、南アフリカの30億年以上も前の地層より発見されている。石灰質ストロマトライトは、世界各地の後期始生代以降の地層中に普通にみられる。原生代の末期には、真核多細胞生物も出現し、エディアカラ動物相を構成する多様な軟体性多細胞が生息していた。古気候については不明な点が多いが、氷礫岩層や氷河が磨いた岩盤が各地で発見されており、何回かの氷河時代があったことがわかっている。先カンブリア時代末の8億~6億年前の氷河時代はとくに大規模で氷河が地球表面の大部分を覆いつくしていたと考えられている。
東アジアでは、中国の華北より朝鮮半島にかけて、主として結晶片岩類や片麻岩よりなる先カンブリア界が発達している。日本には、先カンブリア時代の地層は知られていないが、岐阜県の中生代の礫岩層中より約20億年前の年代を示す片麻岩礫が発見されており、礫をもたらした後背地に先カンブリア界が存在していたことが明らかになった。
[小澤智生 2015年8月19日]
『リチャード・T・J・ムーディ、アンドレイ・ユウ・ジュラヴリョフ著、小畠郁生監訳『生命と地球の進化アトラスⅠ 地球の起源からシルル紀』(2003・朝倉書店)』▽『アンドルー・H・ノール著、斉藤隆央訳『生命 最初の30億年――地球に刻まれた進化の足跡』(2005・紀伊國屋書店)』