古生代の最初の地質時代。先カンブリア時代とオルドビス紀の間、約5億4100万年前から約4億8540万年前までの約5560万年の期間に相当する。カンブリア紀に形成された地層をカンブリア系という。カンブリア紀の名称は、模式地のイギリス、ウェールズ地方の古称カンブリアにちなんで、1836年にセジュウィックが命名した。生物界では、現生の無脊椎動物(むせきついどうぶつ)の主要な門が、分類学的所属の明確にできない多様な無脊椎動物とともに大放散をとげ、この紀の終わりまでに出そろう。カナディアン・ロッキー山脈の高地に露出するバージェス頁岩(けつがん)層からは、カンブリア紀に無脊椎動物に爆発的放散が起こったことを示す多種多様な化石が発見されている。脊椎動物では、コノドント類やナメクジウオの仲間の原始的魚類が出現した。また原索動物の筆石類(ふでいしるい)は当紀の終わりに知られている。無脊椎動物門では、石灰質の外殻などの硬組織をもつものが一斉に出現し、先カンブリア時代に比べ化石の産出量が著しく多くなる。なかでも節足動物の三葉虫類と、海綿動物と腔腸(こうちょう)動物の中間的性質をもつ古杯類(古盃動物)が特徴的である。古杯類は、三葉虫類に先だち当紀のもっとも初期に栄えていた。三葉虫類は、当紀に知られている化石動物の全属種の過半数を占め、生物地理学的研究や地層の対比上もっとも重要なものである。
植物界では藻類が主である。カンブリア紀の地層は、世界中の楯状地(たてじょうち)の周辺に広く分布し、東アジアでは、揚子江(ようすこう)盆地、黄河盆地、朝鮮半島に石灰岩や砕屑(さいせつ)岩類からなる海成層が知られている。
[小澤智生・小林文夫 2015年8月19日]
『モリス・サイモン・コンウェイ著、松井孝典訳・監修『カンブリア紀の怪物たち――進化はなぜ大爆発したか』(1997・講談社)』▽『リチャード・T・J・ムーディ、アンドレイ・ユウ・ジュラヴリョフ著、小畠郁生監訳『生命と地球の進化アトラスⅠ 地球の起源からシルル紀』(2003・朝倉書店)』
古生代最初の紀で,今から約5億9000万年前から5億0500万年前までの,およそ8500万年の期間をいう。イギリスのカンブリア地方(ウェールズ地方の古名)に分布する地層にちなんで,1835年にA.セジウィックが命名した。
先カンブリア時代からは,殻や甲殻のような硬組織をもつ海生無脊椎動物の出現によって区別される。次のオルドビス紀とともに,三葉虫類が最もよく栄えた時代であり,紀の細分や古地理学的区分には,しばしば三葉虫群の特徴が使用される。
カンブリア紀の生物は,この時すでに大多数の綱classが出そろっている。カンブリア紀前期には古杯類という海綿類に近似の群体性動物が栄え,一種の単純礁を形成した。古杯類は以後まったく発見されていない。
中期の地層で,カナダのアルバータ地方のロッキー山中に露出するバージェスケツ岩からは,70属130種以上の化石群(バージェス動物群)が発見されているが,多くは付属肢や軟体部など微細な構造を残しており,系統上重要な情報を提供している。
カンブリア紀は,主として三葉虫群の特徴により前,中,後の3期に分けられる。前期をオレネリアンOllenellian,中期をパラドキシディアンParadoxidian,後期をオレニディアンOlenidianと呼び,ヨーロッパで典型的に発達している。中国などアジアではレドリキアRedlichiaが前期を,ブラックウェルデリアBlackwelderiaが中期を,それぞれ特徴づける。この時代の地層は日本からは未発見である。
→地質時代
執筆者:浜田 隆士
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…現在でも海は非常に多くの生物種が生活している場所である。海産のおもな動物群は,古生代の初め(カンブリア紀)にそのほとんどが出現しており,魚類は少しおくれて,オルドビス紀に原始的な甲冑魚として出現する。陸の生物が海から移りすむのは,その後のシルル紀である。…
…高原にはカール,U字谷などの氷河地形が刻まれ,牧羊・牧牛地帯となっている。古生代の最初のカンブリア紀の名称はこの山地名に由来する。【長谷川 孝治】。…
※「カンブリア紀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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