日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウスバカゲロウ」の意味・わかりやすい解説
ウスバカゲロウ
うすばかげろう / 薄翅蜻蛉
昆虫綱脈翅(みゃくし)目ウスバカゲロウ科の昆虫の総称、およびその1種。この類は、一見トンボに似ているが類縁は遠い。トンボより頭部が小さく、触角も太い。はねもトンボより幅広くて柔らかく、飛び方もひらひらと弱々しく、トンボのように敏捷(びんしょう)でない。また、カゲロウの名をもつが、カゲロウ類とも分類学上遠縁で、形態も異なっている。日本のほか、朝鮮半島、中国、台湾に分布する。
[山崎柄根]
形態
和名ウスバカゲロウHagenomyia micansは、体長35ミリメートルで、前ばねは40ミリメートル内外。体は細くて棒状。後頭のくぼみや口器、胸部腹面、黒色の跗節(ふせつ)を除く肢(し)部などは黄色。はねは透明で網状の脈があり、前縁の先端からすこし手前に白点がある。幼虫はアリジゴク(蟻地獄)とよばれ、頭部に大きなあごをもち、腹部は短く、袋状に膨らんでいる。
[山崎柄根]
生態
成虫は6~10月に現れ、人家に近い林に多い。夕方から夜にかけ、カなどの小虫を捕食するために飛び、灯火にもやってくる。卵は樹下や軒下などの砂土に産み付けられ、幼虫は日陰の乾いた地表にすり鉢形の穴を掘り、底の砂土中に潜んでいる。穴を通過しようとしてずり落ちたアリなどの小昆虫に、頭で砂土をはじきかけて底へ落とし、大きなあごで挟んで体液を吸う。幼虫は1~2年で成熟し、土中で糸を吐き、土に包まれた直径1センチメートルほどの球形の繭をつくって蛹(さなぎ)になり、まもなく成虫となって樹林へと飛び立つ。
[山崎柄根]
近似種
ウスバカゲロウ科Myrmeleonidaeの昆虫は、世界に600種以上が知られ、日本には17種を産する。アリジゴクのすり鉢形の穴をつくるものは、コウスバカゲロウMyrmeleon formicarius、ホシウスバカゲロウGlenuroides japonicusなど一部のものに限られ、オオウスバカゲロウHeoclisis japonica、カスリウスバカゲロウDistoleon nigricansなどは砂中にすむが穴をつくらず、マダラウスバカゲロウDendroleon pupilarisなどは地表にいる。岩石の表面のくぼみに張り付いて、ほかの昆虫を捕食するものもある。
[山崎柄根]