昆虫綱の1目または1上目。この名称はリンネが1758年に,一群の昆虫に対して多数の翅脈をもつという意味の脈翅目Neuropteraを設定したのに始まる。その後,系統の研究の進歩によってカゲロウ類,トンボ類,カワゲラ類,シリアゲムシ類,トビケラ類などは脈翅目から除外され,それぞれ独立した別の目として扱われるようになった。こうして脈翅目はリンネの使った意味で用いられなくなり,現在では完全変態類に属し,成虫では一般に以下のような特徴をもつグループをいう。
体は軟らかく,口器は咀嚼口式(そしやくこうしき)で吻(ふん)状に突出しない。膜質でレース模様の翅を有し,前翅と後翅はほぼ同形同大で,静止時は背部で屋根形にたたむ。このような脈翅目は次の3亜目に分類される。ラクダムシ亜目Raphidiodea(ラクダムシのみを含む),広翅亜目Megaloptera(センブリ,ヘビトンボを含む),扁翅亜目Planipennia(コナカゲロウ,カマキリモドキ,ヒメカゲロウ,クサカゲロウ,ウスバカゲロウ,ツノトンボなどを含む)。近年では,この三つの亜目を独立の目として,3目を合わせて脈翅上目と扱うこともある。いずれにしても,これらは共通の祖先に由来するまとまった分類群であると見なされている。世界から約4700種,日本には約150種が記録され,形態は多様でカマキリやトンボと見誤るような種がある。
成虫はおもに夜間に活動し,飛翔(ひしよう)は緩慢なものが多い。寿命は広翅亜目では数日~10日であるが,他のものでは長くて2~3ヵ月に及ぶ。産卵数は多く,カマキリモドキやクサカゲロウでは3000個を超える例がある。卵はだいたい長楕円形であるが,クサカゲロウの卵は糸状の柄をもちうどんげとして知られている。幼虫は広翅亜目と一部の扁翅亜目では水生,他は陸生,カマキリモドキの幼虫のように寄生生活を行うものもあるが,大部分は植物体や地表で自由生活を行い小昆虫類を捕食する。ラクダムシ亜目では10~11回,広翅亜目では4回,扁翅亜目ではほぼ3回の脱皮を経てさなぎとなるが,扁翅亜目だけは,マルピーギ管から絹糸を分泌して繭を形成し,その中でさなぎになる。
害虫を含まず,人間とは直接かかわりはないが,ヒメカゲロウ,クサカゲロウなどはアブラムシ,カイガラムシその他の農林害虫に対する有力な天敵である。ヘビトンボの幼虫はマゴタロウムシ(孫太郎虫)と呼ばれ,薬用に供されている。
執筆者:塚口 茂彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
完全変態をする昆虫のなかで比較的原始的な一群Neuropteraをいう。これにはヘビトンボとセンブリの属する広翅(こうし)類、ラクダムシ類、扁翅(へんし)類の3群が含まれるが、狭い意味では第三の扁翅類のことをさすことがある。この類の成虫は陸生であるが、幼虫も広翅類と一部の扁翅類が水生で腹節の両側に気管鰓(さい)をもつのを除けば、陸生であって、獲物に鋭い大あごを突き刺し体液を吸う。成虫のはねは脈がかなり多くて横脈で多少とも網状にくぎられ、脈には多くは毛がある。触角は糸状が多いが、櫛(くし)状や数珠(じゅず)状のこともあり、先がすこし膨れたツノトンボ類のようなものもある。目はかなり大きく、クサカゲロウなど一部の種では単眼3個を備える。脚(あし)は細く、跗節(ふせつ)は5節。幼虫は頭が大きいことが多く、よく動き、大あごと小あごは長くて突出し、大あごの内側に沿う溝に小あごが密着し、吸管の役目を果たす。三齢を経て蛹(さなぎ)になるのが普通で、蛹化(ようか)前に尾端から糸を出して卵形ないし紡錘形の繭をつくる。糸はマルピーギ管末端から出されるといわれる。蛹は裸蛹で運動可能であり、羽化前に繭から脱出するものもある。
世界におよそ1万種が知られるが、初めの二類は少数で、扁翅類が大部分を占め、コナカゲロウ、カマキリモドキ、ヒメカゲロウ(クサカゲロウを含む)、ウスバカゲロウ(ツノトンボを含む)の四類に大別される。このうちウスバカゲロウの幼虫はアリジゴクとして知られ、寄生性のカマキリモドキは過変態をすることが知られている。
[中根猛彦]
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