日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウメノキゴケ」の意味・わかりやすい解説
ウメノキゴケ
うめのきごけ / 梅樹苔
[学] Parmelia tinc torum Despr.
地衣類ウメノキゴケ科の代表的な1種。石垣や木の幹などに群生する葉状地衣。葉状体はほぼ円形に広がり、直径10~20センチメートルになる。表面は乾くと灰緑色をしているが、湿るとやや緑色が濃くなる。古くなると葉状体の中央部の表面に細かい粉状の針芽を密生してざらつくが、他の部分は滑らかである。葉状体の縁は浅く切れ込み、やや波状になる。子器はまれにでき、杯(はい)状で、古くなると盤状になり、中は褐色、熟すると縁が不規則に割れる。全世界の暖地に広く分布しているが、日本では低地、とくに海岸近くに多くみられる。地方によっては正月の松飾りやいけ花の材料として利用する。
ウメノキゴケ科ウメノキゴケ属の地衣を総称してウメノキゴケということもある。すべて葉状地衣で、葉状体は楕円(だえん)状ないし円状に広がるが、葉状体が細く分かれるものもある。子器は円盤状、盤の底は褐色か黒褐色、胞子は無色で1室からなる。この属には1000種以上の種類が含まれていて、ほとんど全世界に分布する。日本には80種ほどが知られていて、ウメノキゴケのほかにカラクサゴケP. squarrosa、センシゴケMenegazzia terebrataや、ツノマタゴケEvernia prunastri、オリーブゴケP. olivacea、ウチキウメノキゴケP. homogenes、マツゲゴケP. clavuliferaなどがある。ウメノキゴケ属の種類のうちで、低地に好んで生育するウメノキゴケ、マツゲゴケなどは、その生育量や分布の状態から、環境指標として利用されることがある。すなわち、都市およびその周辺部におけるウメノキゴケ属の種の分布状態を調べ、各種類の生育地点を図示することによって、ウメノキゴケ属の種が欠けている部分は、大気汚染が進んでいる地域とされている。この方法による環境測定はカナダ、イギリスなどでは早くから行われていたが、日本でも最近になって、この方法による測定の試みがなされるようになった。
[佐藤正己]