日本大百科全書(ニッポニカ) 「エジプト博物館」の意味・わかりやすい解説
エジプト博物館(カイロ)
えじぷとはくぶつかん
Egyptian Museum
カイロにある、古代エジプトの美術品収蔵における世界最大の博物館。収蔵品数は10万点を超える。通称としてカイロ博物館とよばれることも多い。
18世紀末のナポレオンのエジプト遠征以来、エジプトの文化遺産が国外に流出するなか、1850年にルーブル美術館のスタッフとしてエジプトに派遣され、サッカラで発掘調査を行い、フランス本国へ美術品の移送を行っていた考古学者オーギュスト・マリエットが、58年ルクソールやギザでの発掘の手腕を認めたエジプト政府の要請を受け、考古局長に就任した。遺品の現地保存を唱える彼が、63年にブーラクに設立した博物館が現在のエジプト博物館の前身である。その後、マリエットの遺志を継いだフランスの考古学者ガストン・マスペロは、手狭になりつつあった博物館を、91年ギザに移すが、1902年にはさらに現在の建物のあるカイロに移ることとなった。設計者はフランスの建築家マルセル・ドゥルニョンMarcel Dourgnon(1858―1911)である。1階中央ホールは吹き抜けになっており、巨大な『アメンヘテプ3世と王妃ティイ』の座像をはじめ、数々の石像や石棺が並ぶ。正面入口左からこのホールを囲む形で、古王国時代からグレコ・ローマン時代に至る遺品が年代順に展示され、『カフラ王座像』やアマルナ美術の傑作『イクナートンの巨像』などの傑作を見ることができる。2階には、22年ハワード・カーターによって発見されたツタンカーメン王の墳墓から出土した品が多く陳列されている。作品の展示のみならず、専門的研究成果をシリーズで刊行しており、名実ともにエジプト学の中心的役割を果たしている。
[保坂健二朗]
『川村喜一編『世界の博物館17 エジプト博物館』(1978・講談社)』▽『『古代エジプト展――カイロ博物館秘蔵3000年の世界を行く』(1983・西武美術館)』▽『テレビ朝日・西武美術館編『黄金のファラオ展――カイロ博物館秘蔵古代エジプトの神秘』(1984・テレビ朝日)』▽『友部直編『世界美術大全集 第2巻――エジプト美術』(1994・小学館)』▽『松本弥編著『カイロ・エジプト博物館・ルクソール美術館への招待』(1997・弥呂久)』▽『吉村作治文、熊瀬川紀撮影、岩出まゆみ解説『エジプト美の起源――カイロ博物館入門』(1997・小学館)』▽『仁田三夫編著・写真『図説古代エジプト1 ピラミッドとツタンカーメンの秘宝篇』(1998・河出書房新社)』▽『吉村作治監修『カイロ博物館 古代エジプトの秘宝』(2000・ニュートンプレス)』▽『『週刊世界の美術館40 エジプト国立博物館』(2000・講談社)』