エゾアワビ
Nordotis(=Haliotis)discus hannai
ミミガイ科のクロアワビの亜種で東北地方や北海道に分布する型。大きさはクロアワビ同様,殻の長さ20cm,高さ7cm,幅17cmくらいになるが,殻表の低い波状の凹凸が基本型のクロアワビよりも著しい。成長が低温のために遅いので,幼貝を採取し,暖かい南方へ移殖して養殖効率を高めることが行われ,また北海道では渡島半島の南西岸に分布しているが,これをこの種が分布していないが,餌となる褐藻類が繁茂している寒流域の内浦湾に移殖して成果をあげている。暖流系のエゾアワビと寒流系のオオバンヒザラガイの分布の違いについては,エゾアワビがムイ(オオバンヒザラガイ)と戦って大敗して,ムイ岬(恵山岬)以北にはすめなくなったというアイヌの民話がある。9~10月ごろ産卵し,1年で3cm,2年で5cm,4年で7.5cmに成長する。春先にエゾアワビは緑藻を多く食べ,このため肝臓(つのわた)に蛍光性色素ピロヘロフォルビドaが蓄積する。人などがこれを食べて日光にあたると皮膚が赤くむくみ光過敏症になる。そのため,岩手県などでこれをネコが食べたため,薄い耳に炎症を起こし,かゆさのためかきちぎり耳を失ったものがあると報告されている。
執筆者:波部 忠重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
エゾアワビ
えぞあわび / 蝦夷鮑
[学] Haliotis (Nordotis) discus hannai
軟体動物門腹足綱ミミガイ科の巻き貝。クロアワビH. (N.) discusの東北地方から北海道にかけて産する一生態型で、水産上アワビ類のなかで最重要種である。殻は楕円(だえん)形で薄く凹凸が多い。食用として種苗生産から養殖されている。暖流域に移植すると成長がずっと早くなる。
[奥谷喬司]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
エゾアワビ
Haliotis discus
軟体動物門腹足綱ミミガイ科。水産上の名称。クロアワビの寒冷地方型で,東北地方,北海道に分布する。典型的なクロアワビに比べて殻表に低い波状の皺が多いが,エゾアワビを暖い地方に移して育てるとクロアワビ型になる。
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エゾアワビ
マキガイ亜綱オキナエズス亜目ミミガイ属の[Haliotis(Notohaliotis)discus hannai].アワビの一種.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のエゾアワビの言及
【アワビ(鮑)】より
…ミミガイ科の巻貝のうち大型の3種マダカアワビ(マダカともいう)Nordotis madaka(イラスト),メカイアワビ(メンガイ,メガイともいう)N.gigantea(=N.sieboldii)(イラスト),クロアワビ(オンガイ,オガイともいう)N.discus(英名Japanese abalone)(イラスト)および[エゾアワビ](クロアワビの亜種)N.d.hannaiの総称。 殻はいずれも大型で10cm以上になり,卵円形または卵楕円形で巻きは低く,最後の巻きがはなはだしく広く大きい。…
【オオバンヒザラガイ(大判石鼈貝)】より
…寒流域に分布し,潮間帯より水深600mに及ぶが浅いところに多い。アイヌ語でムイといい,エゾアワビと争い戦って,エゾアワビを敗走させたので,ムイ岬(恵山岬)より北にはエゾアワビが分布しないという民話がある。外套膜の表面の粗い皮をそぎ落として白い肉を食用にするが固い。…
※「エゾアワビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」