改訂新版 世界大百科事典 「エピナル」の意味・わかりやすい解説
エピナル
Épinal
フランス北東部,ボージュ県の県都。人口3万9000(1990)。ボージュ山地の西端,モーゼル川上流域に位置する小都市。10世紀末メッスの司教により建設された修道院や城郭から発展した。目だった産業はないが,エピナル版画Imagerie d'Épinalの産地として名高く,県立美術館には民衆版画国際美術館が併設されている。民衆版画は,16世紀ごろより,パリ,シャルトル,オルレアンなどで盛んとなったが,18世紀の半ばからは,エピナルがもっとも活発な中心地となった。ペルランPellerin家は,その代表的な版元である。手法としては,草木を原料とする染料による彩色版画で,合羽刷の技法を特徴とする。木版が主流であったが,石版,銅版も一部用いられた。主題は,宗教画,暦,怪奇譚など多様だが,エピナルではとくにナポレオンにまつわる版画が多数製作され,民衆の間へのナポレオン伝説の普及に一役買った。作品は行商の手により広く全国に販売された。19世紀半ばより,民衆の識字率の向上や好みの変化のためしだいに衰えるが,今日でも子ども向けの挿絵本や童謡の本などに愛用され評判が高い。
執筆者:二宮 宏之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報