翻訳|bison
前半身がよく発達し,長毛を密生した野生ウシ。偶蹄目ウシ科の哺乳類。ヨーロッパバイソンBison bonasusとアメリカバイソンB. bisonの2種がある。体長210~350cm,尾長50~60cm。ヨーロッパバイソンは,大型で後半身が比較的よく発達し,角は細長く,額は幅広く扁平で,頭,首および胸に長毛があるが,耳は毛の外に突き出ている。毛は褐色。肩高1.8~1.95m,体重600~1000kgに達する。かつては北ヨーロッパからカフカスの森林に広く分布したが,1921年に野生種は絶滅した。しかし,ヨーロッパ各地の動物園などにいた45頭をポーランドのビアロウィーザの森林に放った。現在ではカフカス地方にも移入され,1500頭ほどに増加している。10頭前後の小群ですみ,夜も昼も活動するが,朝夕に樹皮,木の葉,芽,草,地衣類などを食べる。
アメリカバイソンは,やや小型で後半身の発達が悪く,角は短く,額は強く突き出し,耳は長い毛に埋もれ外からはよく見えない。毛は黒褐色。肩高1.5~1.8m,体重360~900kg。かつては北アメリカの平原におもに生息し,家族的な小集団で生活していた。主食はイネ科の草であり,秋には大群となり南へ移動して冬を越し,春には小さな群れに分かれて北へ戻った。18世紀までは5000万頭以上が生息し,アメリカインディアンと共存していたが,ヨーロッパ人が北アメリカに植民して以来,生息数は激減し,1902年ころには25頭を残すのみとなった。その後保護の手が加えられ,現在ではおよそ5万頭にまで増加したといわれる。
両種とも交尾期はおもに7~9月で,春に1産1子を生むが,妊娠期間はヨーロッパバイソンが260~270日,アメリカバイソンが285日である。野生での寿命は20年くらいとされるが,飼育下では約40年の記録がある。
なお,アメリカではアメリカバイソンをバッファローbuffaloと呼ぶことがあるが,バッファローは元来スイギュウを指す英語であるから適切ではない。
執筆者:今泉 忠明 農耕をも行っていたとはいえ,シャイアン,アラパホなどの平原インディアンにとって,かつて大平原に大群をなして存在したアメリカバイソンは,食肉,衣服,寝具,テント,ボートなど,衣食住すべての供給源であった。17世紀のスペイン人からのウマの入手はバイソンへの依存をますます高め,平原インディアンの多くは半永住的な村をすて,バイソンを追って移動,放浪するようになった。白人は当初,スポーツとしてバッファロー(バイソン)狩りを楽しみ,19世紀後半の鉄道建設期には障害物として乱獲した。1871年にバイソンの皮革が商業的に利用されるようになると,年間300万頭も殺され,83年にはほぼ絶滅した。それは平原インディアンにとって生活基盤の喪失を意味した。今日,アメリカバイソンは保護区内に生息するにすぎない。
執筆者:岡田 泰男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目ウシ科バイソン属に含まれる動物の総称。ヤギュウ(野牛)ともいう。この属Bisonには、アメリカバイソンB. bisonおよびヨーロッパバイソンB. bonasusの2種がある。前者は北アメリカの草原地帯に分布し、バッファローの名でよばれることも多い。後者は東ヨーロッパの森林地帯にすむ。体形は両種とも類似しているが、前者がやや大きい。頭部が大きく、背中から肩の部分が隆起している。肩高で1.5~1.8メートル、体長2.7メートル、尾長50~60センチメートル、体重は1000キログラムに達する。角(つの)は雌雄ともにあるが、体に比較して短く円筒形で、内方に湾曲する。体毛は暗褐色で、前躯(ぜんく)に多くて長く、後躯では短く少なくなる。食性は、前者が草原にすみ草本類の植物を主食するのに対し、後者は森林にすみ草本類のほか樹葉、樹皮、木の芽などを好食する。交尾期は8~9月ごろで、267~285日の妊娠期間を経て、翌年の春から初夏にかけて出産する。1産1子。生まれた子は体長90センチメートル、体重20キログラムほどで、生後1時間ほどで起立し、3時間ほどで哺乳をする。子はやや淡色で、毛が密である。
19世紀初期、アメリカバイソンは北アメリカ全土に数千万頭という膨大な生息数を誇っていたが、乱獲と生息地の開発によって激減し、1889年にはわずかに541頭を残すのみとなった。しかし、その後の保護策によって、現在では数万頭に回復している。ヨーロッパバイソンも、かつては北ヨーロッパからカフカスの森林まで広く分布していたが、1921年にはついに野生のものは絶滅し、動物園や公園に飼育されているものを残すのみとなった。しかし、国際的な保護活動の結果、増殖に成功し、現在では野生復帰の試みもなされている。両種とも、わが国の動物園で飼育繁殖例がある。寿命は20~30年である。
[中川志郎]
北アメリカの大草原地域、森林地域の先住民にとって、毛皮と食肉で衣食住すべてにわたる供給を支えたがゆえに、バイソンはしばしば信仰や儀礼の対象になった。雨と結び付いていることが多く、ショーニー人は、バイソンの尾を少し水につけ、静かに揺すって雨を祈る。ノース・ダコタのヒダツァ人は、バイソンの頭蓋骨(ずがいこつ)を祭壇に置き、食物を供えて雨乞(あまご)いをした。また、アパッチ人やカイオワ人などでは、バイソンとバイソンの老女は、よく知られた神話の人物である。バイソンの生息地域に分布するコヨーテとキノボリヤマアラシのトリックスター(ずる賢い者)物語では、バイソンは愚かな動物として語られている。
[小島瓔]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…この地域の大部分は草原におおわれ,河川沿いには混合林が生育している。そして,バイソンが最も特徴的な大型動物であった。 この領域のおもな原住民はクロー族,シャイアン族,カイオワ族などであるが,伝統的には河岸段丘の上で小規模な農耕を行い,季節的には野生植物の採集を行った。…
…ふつう沖縄本島のヤンバルクイナや西表(いりおもて)島のイリオモテヤマネコのように,島に孤立化している地理的に分布の狭いものが例にあげられているが,いろいろなカテゴリーのものが含まれている。すなわち,アメリカのバイソンのように,かつては個体数が豊富であったのに少数しか残存していないもの(数量的遺存種),メタセコイアのようにユーラシアの広い地域に分布していたものが,現在は中国四川省の限定された狭い地域にだけ生き残っているもの(地理的遺存種),シャミセンガイのように5億年もの間,ほとんど変化することなく例外的にゆっくりと進化したもの(系統的遺存種),ゾウのようにかつてはたくさんの類縁種があったのに,現在では2種しか存在せず類縁種の数が少なくなったもの(分類的遺存種)などである。これらのカテゴリーは互いに関連しあい,シーラカンスなどの場合はすべての意味での遺存種といえるが,ゾウのような場合は系統的遺存種とはいえないし,よく遺存種として扱われているオーストラリアの有袋類は,厳密にはそうはいえない面もある。…
…18世紀後半にミズーリ川流域に達しアリカラ族と接触してから大平原の文化要素を取り入れ,大平原の代表的な部族になった。 生業の基盤はバイソン狩猟にあり,弓矢を武器とし包囲,追込み,崖落し,落し穴などの狩猟方法をとった。バイソンの肉は食料とされ,乾燥肉にしたりペミカン(乾燥肉,脂肪,野イチゴ類を混ぜて塊にした携帯食料)に加工された。…
※「バイソン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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