日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャコウウシ」の意味・わかりやすい解説
ジャコウウシ
じゃこううし / 麝香牛
musk-ox
[学] Ovibos moschatus
哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目ウシ科の動物。アラスカ、カナダ北部、グリーンランドのツンドラ地帯に生息する。1924年以来、生息数の減少に対する保護策としてグリーンランドから北極圏の島々に移され、現在は生息範囲を広げている。体形は一見ウシに似て、肩に隆起があり四肢と耳も短い。頭胴長1.8~2.6メートル、肩高1.1~1.5メートル、体重200~410キログラム。雌は雄よりやや小さい。角(つの)は雌雄ともにあり、基部が太く、左右の角は額で合一し、始め頭の側下方に、のち前上方に曲がる。長い角で73センチメートルの記録がある。吻(ふん)は有毛で、ひづめは幅広い。このひづめは雪中の行動を巧みに支え、さらに雪をかいて植物を探すのに適している。体色は頭、頸(くび)、胴では黒褐色で、背の中央部はやや黄白色、足は白い。ときに顔にも白斑(はくはん)がある。被毛は下毛が5~7センチメートルの羊毛状で、この上にひづめまで垂れる長毛が生え、防寒用マントの役をする。雄は交尾期になると顔にじゃ香臭を発する臭腺(しゅうせん)が発達する。普通10~30頭の群れで生活するが、19世紀までは100頭以上の群れもみられた。オオカミなどに攻撃されると、子を中央に入れ、その外側を成獣が角を外に向けて円陣を組み防御する。いたって粗食で、草や地衣類、ユキヤナギの芽や枝などあらゆる植物を食べ、冬季はひづめで雪の下から植物を掘り出して食べる。2年に一度の交尾期は7~9月で、1産1子、ときに2子を翌年5月に産む。子は、生まれるころ気温が零下29℃に達するため長い毛を備え、肩高約45センチメートル。生後1、2時間で歩く。本種の外形はウシに似るが、系統的にはカモシカやターキンに近縁で、珍獣なのと数が激減したため厳重に保護されている。
[北原正宣]